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錬金術の森~未成年孤児エルの半生~  作者: 一仙
第二章 冒険者、エル
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02-18.己の道と友との道

 通りにあるそこかしこの店からは美味しそうな匂いが漂い始めていた。そんな通りをジュリアとエルは森狸の寝床へ向かった歩いていた。先ほど冒険者ギルドで依頼達成の報告を済ませ、報酬も受け取った帰り道だ。魔物の多い幻霧の森に近い辺境都市とは言えど、通りには子供を連れた家族や年寄りも歩いており平和を感じさせた。

 今日の依頼は依頼と呼べるような内容では無かったが、エルの中では非常に実りある内容の1日だった。薬師として見習い登録はまだ出来る状況ではないが、それでも自分が続けている努力がちゃんと結果として評価して貰えたのは素直に嬉しかった。


 「リックとルチアも依頼を終えて宿に戻られていると思いますから、どんな依頼だったか後で聞いてみるのも楽しみですね。」

 「はい。」


 あの商業ギルドでの一件と冒険者ギルドの講習会の騒動から、ジュリアはリックとルチアに敬称を付けるのを止めた。エルに対しても様だった敬称がさんになった。ジュリアの中で三人にこれからも指導していくと決めた事でちゃんと指導者としての線引きを図ったようだ。

 これからはジュリアも三人の師匠として厳しく指導していくと決めたようだ。それは講習会の騒動以降の三人もしっかりと反省しつつ稽古に打ち込むとジュリアにも約束した。


 宿に戻るとリックとルチア、ダンは先に戻っており風呂に入っているとジョバルが教えてくれた。エルも部屋に戻り準備をすると浴場へと向かう。この森狸の寝床には浴場がある。店の隣に別棟として建てており、小さいながらも男湯と女湯に分かれて作られている。

 エル達3人はこの浴場が非常に気に入っていた。森の小屋には小さな甕で作った風呂はあるが、レミト村の孤児院には当然風呂などあるはずがない。湯船で体を広げてゆっくりと体を休める。ワックルトに来た時の贅沢になっていた。三人は自分達で宿を借りれるようになった時に風呂に入れなくなる事を残念に思っていた。

 ダン達に聞いてもやはり宿に風呂があるかないかは料金にも大きく関わってきているそうだ。王都などの大きな街に行けば大衆浴場と言う風呂に入る為だけの施設などもあったりするそうだ。


 風呂を出てさっぱりした一行は食堂スペースで一緒に夕飯となった。昨日とは打って変わり食堂スペースは酒飲み客なども来店していて大いに賑わっていた。冒険者の中には酒が入ると気が大きくなり、客同士でトラブルなどもあったりするのだがこの店でそんなトラブルを起こす命知らずはいない。冒険者達の中ではこの宿が『元白金冒険者の夫婦が営んでいる』と分かっているからだ。


 「とりあえず3人とも無事に依頼を達成出来て良かった。こうやって最初は様々な依頼を受けてみて自分に合った依頼を見つけて繰り返し受けるのも良いだろうし、違う依頼を受けて経験を積むのも良いと思う。まぁ、繰り返し同じ依頼を受けた方が達成までの時間も早くなるし、今日のような手伝いの依頼なら技術も身に付いて報酬にボーナスが付く事もあるから。まぁ、そこは3人で判断すればいいよ。」


 ダンの勧め通り、3人で今日の依頼の内容を報告し合う。

 リックは鍛冶屋の手伝いだったが、最初は刃こぼれしたり折れたりしている武器を鍛冶場に持っていき、金属部を鋳溶かしてインゴットに戻す作業を手伝っていたそうだ。リックの依頼先は以前、武器を買おうとお邪魔したあの武器屋だったそうで、一生懸命働くリックをあのドワーフの店主は気に入ってくれて冒険者で食えなくなったら見習いとして来いと言ってくれたそうだ。

 ルチアの食堂の手伝いはギルドの傍にある昼間の短い時間だけ営業している食堂だった。周りのギルドや工房の技術者たちが昼食として利用する事が多く、昼の間は目が回るほど忙しい店なのだそうだ。そこでルチアは配膳の手伝いをし、最初のうちは何をして良いのか分からないくらい人と料理が行き交っていたが、だんだんと仕事に慣れてくると空いた席への案内や掃除なども出来るようになっていった。とはいえ、一日だけなのでまだまだ戦力にはならなかったそうだが、ルチアとしては受けられるならまた受けてみたいと感じたようだ。


 3人が3人共に依頼先に恵まれたようでダンもジュリアも安心していた。依頼に関してはギルドの精査があって依頼ボードに載るが悪質な物に関しては魔物討伐依頼などで討伐対象の魔物の生息地に着くと対

象の魔物以外に依頼のランクよりも格上の魔物がいて冒険者が全滅させられた等の報告例もある。

 当然そのような依頼を出した依頼主にも厳罰が課されるが故意では無い場合もあるのでギルド側としても判断が難しいケースが多い。まぁ、街の中での依頼はそのような心配はほぼ無いが、ダン達としては出来る限り良い依頼先に巡り合って欲しいと祈るばかりだった。


 明日はワックルトを離れる日。今のところは二泊での遠征となっているが、これからランクアップも考えれば二泊して一か月近く空けるのはあまり効率的とは言えない。ワックルトに来ていない期間も3人に関しては勉強や訓練があって、決して成長が無い訳ではないが明らかにランクを上げるには時間がかかり過ぎる。レミト村にギルド支部があれば少しはそれも解消されるが、今の村の規模では難しいだろう。

 何よりも現状は領主はレミト村の統治に関しては責務を果たしていないと言える。ワックルトの教会支部が権力によって教会の傘下に無いはずの孤児院に孤児を押し付ける暴挙を許している。しかも、孤児が増えすぎてまともに運営出来なくなっている孤児院に追加の援助なども無く、孤児院は住民や冒険者からの寄付を頼りにしている状態だ。


 3人は今後の事を話し合う。もちろんダンとジュリアは横でその話を聞いて、アドバイス出来る事はしていく。だが、出来る限り3人でどうするのかを決めた方が良いとダンは言う。これからは出来るだけパーティー内で話し合い、結果その決断が間違っていたとしてもそれも経験として積みあがると言う。年長者への相談はもちろん大事だが、何も失敗なく進んできたパーティーほど失敗した時に脆い。だからこそまだ依頼もそれほど危険のない今から話し合って決めていく事に慣れておいた方が良いとアドバイスをくれた。


 3人で話し合って決めた事がある。

 1.三人でワックルトに来た時のみパーティーとしての訓練や依頼の活動をする。

 2.その期間に一人で受けた依頼はパーティー登録した後では三人の功績となるがこれに関しては全員了承したものとし文句は言わない。

 3.一人で受ける依頼に関しては今までに受けた事のある依頼のみとし、魔物討伐等の危険度の高い依頼は絶対に一人では受けない。


 まずは簡単なルールを3人で決めて、ダンが羊皮紙に纒てくれ3人でサインをし、ダンとジュリアが立ち合いのサインをしてくれた。エル達3人は何となく本格的にパーティーとして動き出した事に楽しさを感じているだけだったが、後からダンに教えてもらったが貴族が立ち合いの元で取り決められた誓約書はその取り決めを破ると国内法に則った罰が処されるのだそうだ。


 次の日の朝に一行は冒険者ギルドへと立ち寄る。サレンの手が空くのを待ち、エル達3人はパーティー登録をしたい旨を伝える。サレンは少し考えながら、三人を応接用のテーブルへと案内する。


 「通常であればまだ3人にはパーティー登録を許可するだけの依頼実績がありませんので、本来はもう少し実績を積んでいただくようにお願いしています。」


 やはりまだ早かった。しかし、3人は断られる事は覚悟していた。ここまで受けた依頼はまだ片手で足りるほどだ。まだまだ実績としては心もとないだろう。


 「はい。ギルドには僕たち3人がパーティーを今後組む意思があると言う事を知っておいてほしいと思っていただけなので、断られる事は仕方ないと思っています。なので、今後パーティー登録するのに『具体的に何が足りないか』をその都度教えていただけると嬉しいです。」

 「なるほど・・・分かりました。では、講習会を引き続き何度か受けていただく事と、訓練会の方への参加をお願いします。講習会に関してはお一人で受けていただいても構いませんが、訓練会に関しては出来る限り3人、もしくはパーティーとして活動したい全メンバーで参加してください。」

 「あっ・・分かりました。」

 「と言うのも3人の個人的な戦闘技術に関してはザックさんからパーティーを組むには問題ないとの報告を受けています。なぜそのような報告があったかは聞かないでくださいね。ギルドを通さない一般国民への戦闘訓練は冒険者ギルドの注意案件なので、私は何も知りません。」


 サレンは片目を瞑り3人に秘密を約束させる。ダンとジュリアは苦笑して頷く。


 「ですが、ザックさんも3人同時の戦闘訓練は見た事が無いとの事だったので、その部分を心配されていました。そこを訓練会で見せてもらいアドバイス出来る事があれば改善していただいた後にパーティーとしての登録許可が下りる形になると思います。」


 そう言われて3人の表情は明るくなる。元奴隷と孤児と言う異色のパーティーだけに3人はどうしても自分達に対してネガティブな感情が時折顔を出す。しかし、冒険者ギルドとしては出生がどうであれ、しっかりとした基礎と心構えを持っていれば許可は出すと言う事だった。


 一行はサレンに礼を言いギルドを出て帰路へ着く。

 帰りの馬車の中ではダンとエルが御者席に乗り、他の3人は荷車から御者席へ顔を出し今後どのようなパーティーを組んでいくかを話し合っていた。

 その中で確実に決まっているのはリックが前衛でルチアが後衛を務めるという事。そう考えればエルは自ずと遊撃か中・後衛と言う事になる。ジュリアが3人に今後の訓練を提案する。


 「すぐに連携で使えるレベルに持っていくのは難しいでしょうが、リックの身体強化とルチアの風魔法習得は本格的に始めた方が良いでしょう。魔力循環と操作は今後も続けていく事は変わりませんが、リックの身体強化はレオに風魔法は私が、エルさんはまず全ての魔法を行使してみて何が一番相性が良いかを探りましょう。」

 「「「はい。」」」

 「しかし、リックの身体強化の練習はレミト村でも行えますが風魔法や他の属性魔法に関しては村での練習は発動が安定するまで危険です。ですので、シスターに許可をいただき何日か二人に小屋へ泊まり込みで稽古に来ていただくようにしてはどうでしょう?どうです?ダン。」

 「まぁ、それが一番集中して訓練は出来るね。まぁ、シスター次第って感じだね。これからの孤児院の事も考えるとリックやルチアの代わりになる子が出てくると良いんだけど。」


 今回の帰り道はいつもに比べると接敵が多かった。とは言え、ダンやジュリアからすれば少ないと思えるのだが今までがあまりに接敵しなかった分、今回のように2~3度魔物に出会う事があるとやはり気を抜けない地域にいるのだと思わされる。エル達はまだ魔物と戦わせるには心配だと言う事で3人ともが後衛で参加したが、ルチアは積極的に矢を放ちダンやジュリアの攻撃の合間を縫えるように工夫していた。


 ダン達『創竜の翼』の陣形は斥候のダンが機動型の前衛を務める。それとは変わりエル達の前衛リックは相手の攻撃を受け流しながら攻撃機会を味方に生み出す前衛型になるだろう。これだけでも陣形の訓練や役割の学び方も全く違う。しかし、ダンはリック達に慌てる事無く訓練を重ねて欲しいと伝えた。リックの前衛に向く冒険者がいるらしく、指導も頼んでいるそうだ。

 今後はしばらくワックルトへの遠征は控えて、パーティー登録を最優先に訓練を行い連携の強化に努める。その為の魔法強化や剣術・弓術の訓練も欠かさず行う。一時的に冒険者としての収入は下がってしまうが、本格的に冒険者として活動していく為には今のエル達にはパーティー登録は必須と言える。


 エルは自分が向いている戦い方が何なのかを模索していく事になる。今の戦い方は自分の小さな体と速さを活かしてダンのような機動力を活かす戦い方が良いのではないかと訓練を続けている。そして、魔法に関してはずっと基礎の循環と操作を繰り返して操作に関してはジュリアにもサームにも成長を認めてもらっている。それを属性魔法として使っていく時にどの属性が相性が良いのか。まだまだ冒険者としての活動は始まったばかり。自分達の成長によってどんどんと周りも変わっていくのだろう。


 まずは足元をしっかりと固めていく。いつもの言葉だ。急ぐ必要は無い。まだ時間はある。

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