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神の箱庭 〜Magic World〜  作者: 杯東響時
第七幕「神殺しを為す者達」
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「act09 暴走」

 ウリエルが待つ山の裏に遅れて来たガブリエラの表情からは昨日見せた恐怖の色が消えていた。腕を組みニタリと笑むと瞬時に周囲が冷気に包まれる。それに対抗せんとウリエルも熱波を放つ。


 ——にらみ合いは拮抗状態。若干腰が痛いくらいでコンディション抜群みたいね。


「随分と来るのが遅かったようだがようやく気持ちが吹っ切れたのかな?」


 ——ガイナ達が完全に出払うまで部屋から出られなかったとか言えない。


「まあ、そんなとこよ」

「準備をする必要はないな」

「言葉も語る必要もないわよ」

「なら先に言っておく」


 兄が炎の剣を構えるのを確認してから氷の短剣を構える。昨日は一瞬で溶かされたものだが精神を集中させていれば数回打ち合えるだけの強度にはなるはずだ。


「《《昨日のような魔法はオレには使えん》》。術者はガイナ達の方にいる」


 つまり致命傷を受ければそのまま死ぬだけであると言っているのだ。あんな蘇生魔法みたいなもの使えると聞いたことが無かったから不思議に思っていたがそれならば合点がいく。そうなると気になるのは魔法を行使した魔法使いの存在だが紹介もしないということはよほど隠しておきたい存在らしい。


 どちらにせよ今ここにはいないのであれば関係のない話だ。


「お兄様」

「なんだ」

「……ありがとう」

「…………ふっ。殺した相手に感謝か。随分と!」


 爆発を背に駆けると同時に冷気を纏い走る。二つが打ち合い互いにすれ違うと後ろから氷を纏った拳で後頭部を殴り落とすと腹部を蹴り上げて氷拳で平手打ち、これを繰り返し考える隙すら与えない。


 実力で劣っているのは昨日嫌というほど思い知らされた。距離を取っても詰めても不利ならば少しでも勝機がある近接戦闘で攻める!!!!


 とそう簡単にいくわけもなく、凍っている腕を掴まれると嫌な魔力が流れ込んでくる。おそらくこのままでは血液が沸騰して安く見積もっても片腕が吹き飛ばされてしまうが、氷は物質を固定させることが特徴。前までのガブリエラではこの腕を振り払う術は無かったが今は違う。


 ——遠慮なんていらない。そういうメッセージだと受け取ったわよ、兄様!


 掴まれている右腕に意識を集中させる。手加減なんてできるかわからない。手加減を意識すれば失敗してしまい片腕を失う可能性だってある。なりふりなんて構っていられなかった。


 刹那、ウリエルの手がガブリエラから弾けるように離れる。妹に加減をしてわざと離したわけではない。予想外といえば予想外、想定内といえば想定内。振りほどかれたというのに、決して有利といえるような状況ではないのにウリエルの表情は満面の笑みと表現できるほど喜々としたものだった。


 感じたのは熱を帯びた魔力波。勿論ウリエルが放ったものではない。ならば——


 ——火属性の魔力!


 数歩距離を空けて再び見たその姿は右半身は氷に、左半身は炎に包まれその表情は若干だが引きつったような、強がっているかのような笑顔を見せていた。常に氷で魔力を冷却して火力を抑えられるようになっているようである。


 これがガブリエラなりに考えた炎の制御方法。炎が大きくなればそうならないように氷で上から押さえつける。二つの属性魔法を同時に扱っているわけだから尋常ではない魔力を消費しているはずだが、少なくとも今平気そうに見えるのは同じく尋常ではない魔力を保持する魔法使いであるからだろう。


「ついに乗り越えたか、我が妹よ!」

「非効率的だからあまり使いたくはないけれどね……!」

「火を制御するのがやっとといった感じか。ならばその重荷を丸ごと外してやろうとも!」


 ガブリエラの実力を測るために抑えていた力を開放すると地面が燃えているという変な表現しかできないような炎が巻き上がる。それだけで一歩引かせるほどの圧力だがそれに抗うように二歩前へと踏み出していた。放たれた幾百もの氷の槍を避けることなく炎と共に真正面から駆け溶かす。だが今のガブリエラは氷だけを扱っているわけではない。氷槍の横雨の中突き進んでくる兄に対して左手を前に突き出し集中力を高めている。


「焼き穿テ……ッ!? がっ、ご、劫火ァァァァァァァァァァァァ!」

「なに!?」


 走ってきた一筋の光を反射的に避けるとできるだけそこから距離を取るがそれよりも早く直線状に大爆発が起きそれに巻き込まれる。即座に熱風を以て防御していたので致命傷には至らなかったが右腕が使い物にならなくなっていた。


 振り返るとすぐ後ろにあったはずの山が半分以上抉られて文字通り消滅してしまっていたのである。裏にいたはずの蜃気楼も先程の熱線によって消えているため少年達の安否確認すらできない。


 ——カレラの魔力反応は……、ちぃ! 先程の魔法の魔力が残留しすぎていて探れんではないか!


 妹の方を見やるとその魔力は更に増加していっており周囲に爆発を散らしながら苦しみ悶えている。


「…………」


 あるのは絶句だけだった。今の自分ならば仮に我が妹が暴走しようとも抑えることができるはずだと慢心すらしていた。結果はこのザマ。自分を守るのが精いっぱいで絶句して妹を見ていることしかできていない。


 一族の中では極めて平凡と言わざる得ない人間が努力したところで同じく努力をしてきた一族の中でも極めて優秀な人間に勝てる道理など、それこそ裏技でも使わない限り存在しなかった。


「なにもかも見積もりが甘かったオレのせいだな。これでは焚きつけた兄としての面目が立たん。オマエだけは、我が妹だけは必ず、守り抜いてやる!」


 すうっと深く深呼吸をして、


「ウリエル! オレの声に応えろ!」


 爆発が起きたわけではないが、直後ガブリエラは暴走しながらも兄の変化に目を奪われる。通常の魔法で発生する火は赤く激しいものが多いが、兄が現在纏っているのは青白く穏やかにふらゆらと燃え、彼の髪色も仄かに蒼く光っているようにも見えた。他の熾天使いとは明らかに違うステージへと至ったであろう彼の悠然と歩く姿にこんな状況なのに安堵すら覚えていた。


「そして! もうこれ以上お前の手でオレを含め誰も傷つけはさせんさ! このウリエルの名に懸けて!」


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