龍キメラの原種(西遊記第15回から)
「西遊記の現代科学」の続きです。他の話を旧自サイト閉鎖に伴ってこちらに移動させた機会に、新規に書いた分です。
西遊記の生成過程の伝統に従って(旧自サイトでも宣言したように)著作権を放棄します。(原作者を騙らない限り)改変・再使用はご自由にどうぞ。
西遊記では龍が色々な所に出てきて、悟空に虐められたり、こき使われたりする。伝承学的には龍は竜巻現象を生き物と捉えたことから生まれ、それにオーロラや雷雨などが混ざったとされているが、西遊記はそんな底の浅い世界ではない。仙人という名のマッドサイエンティストなら、龍というキメラ生物を作りだしてもおかしくないと知っているから、頻繁に出て来る。
そもそも緊箍児という人工臓器・サイボーグ部品の開発がDNA寄生型という形で成し遂げられている世界なのだ。その前段階にキメラも実用化しているに決まっている。問題は、龍の元となった生物は何か、ということだ。
ここで参考になるのが、悟空が龍を馬鹿にするときの台詞だ。
昔の中国では実際の戦いの前に口戦があり、その口汚さは水滸伝や三国志でも普通に見られるが、西遊記は妖怪などの人外を相手にするので、その表現も独特だ。当然ながら、悟空はそれが得意で、色々なバリエーションがあるが、それでいて本質をついている。というのも、相手に精神的ダメージを与えるには、真理を突いた内容であるべきだからさ。
まず第15回で「チンピラのドジョウ」と呼び、さらに第46回では『角持ちのミミズ』『鱗持ちのドジョウ』と悪態をついている。ミミズはともかく、ドジョウはいかにも風貌がにている。川底を好むのも龍と一緒だ。
悪口以外にも原種判定の助けとなる情報がある。第15回での戦いで、直ぐに根を上げて逃げたが、その時の姿が水蛇だった。この回に出てた龍は、人間には化けられるものの(第10回と第30回)、他の動物は無理なようで、その証拠に白馬になるにすら観音様の手助けが必要となっている。おそらく蛇だけが特例的に化けられるのだろう。先祖帰りだとしたら、さもありなんだ。
これらの事例から、龍の原種にドジョウと水蛇は入っていることは確かだろう。キメラの初期実験としてもあり得るし、それによってウナギが作られてもおかしくはない。魚類であるドジョウが龍になることは、昇竜伝説にも合致する。
だが、それだけでは四つ足は説明できない。
そこで思い出されるのが、成長過程で肺とエラの両方をもち、四つ足を持ちながらも泳ぎの上手い、あの『蛇の餌』だ。しかも空を飛ぶ!
龍が空を飛ぶのは定番だが、羽ばたいて浮力を得ているわけではない。しかし、身長の十倍以上も飛べるカエルの跳躍力が龍のサイズで維持できれば、上昇気流の強い高度に到達しえて、そのまま浮力で飛び続けることは可能だろう。
蛇はカエルを丸呑みする。キメラの材料として相性が良いことは間違いない。
いや、むしろドジョウとヘビの姿の類似から、この2種のキメラを作ろうとしたところ、魚類と爬虫類の違いは大きく、試しにカエルを使ったら、両生類だけあって、「つなぎ」として機能して上手く行った、というのが技術獲得の真相ではあるまいか。
龍キメラの基本原種としてドジョウ(魚類)、カエル(両生類)、ヘビ(爬虫類)は同定できた。
でも、他にも候補がある。
それは他でもないヒトだ。というのも、上述の「変化の術を十分に取得していない龍」ですら人間だけには化けられるからだ。ヒトが龍キメラの原種の一つだったら確かに化けられるだろう。
実際、泉鏡花が報告した夜叉ケ池伝説にもあるように、生け贄の人間が龍になるという伝説が数多くある。となれば、キメラの素材に人間が使われていた可能性はある。
そもそも、こういう実験をするのは実験に熱を入れるあまり健康を顧みずに仙人になれなかったマッドサイエンティストと相場が決まっており、彼/彼女なら自らの身を実験体に使っていておなしくないからだ。
だが、自身を使う前に、確認すべきことがある。ヘビとドジョウのキメラのつなぎにカエルが必要だったように、この3種のキメラと自身を融合させる前に、その成功率を高めるための「つなぎ」が必要だということだ。必然的に哺乳類となる。
ここで候補にあがるが馬だ。観音様の手助けがあったとはいえ、修行の足りない龍が白馬に変化できて、その姿を維持し続けることすらできたからだ。
件の龍が三蔵法師の乗馬になることについては、第8回の下準備の段階から運命付けられていた。将棋でも龍と馬(飛車と角)はほぼ対等に交換する。これらの事実は、馬も龍キメラの原種に入っていた可能性を示唆する。
こうして、脊椎動物のうち鳥類を除く4類5種が同定できた。それは龍の子供の多様性にも影響を与えていると思われる。
たとえば、子供に受け継がれる遺伝子から、複数の原種の性質がほとんど消えてしまう可能性は、キメラという不安定な配合を考えれば十分にあり得る。その場合、ヘビとドジョウという基本2種以外が消えると考えると、残り3種で3X2X1=6通りの組み合わせが考えられる。ヘビの性質が強いかドジョウの性質が強いかという組み合わせまで入れると12通りだ。
これは『龍は9種を子を生む』という諺と見事に合致する。この9種というのは、西遊記第43回でも、西海龍王が妹夫婦の9人の同腹兄弟の例をあげて、全員がいかに異なるかを説明している。
逆にいえば、上記4類5種以外の原種はいないと考えて良さそうだ。
それでも、これだけのキメラを「子孫を残せる」DNAレベルで作る技術があれば、緊箍児のようなサイボーグ部品も作れるだろう。
将来、人類がキメラ実験をする際、その手はずについて、西遊記はかくも有用な示唆をあたえているのである。
written 2020-9-9
次話は週末にアップできれば、と思います。




