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第二話:孤児院から脱走

 さて、あたしはエベレス院長をどうやって、こらしめようかと考える。とりあえず、武器が必要だなと思ったあたしは、食堂で、夕食の時に使ったフォークを密かに服の中に隠して部屋に戻った。今夜は覚悟しろよ、変態ロリコン院長! まあ、このフォーク、あんまり尖ってないけど。


 その夜、ベッドで寝たふりをして待っていると、夜中に、また院長がやって来た。昨夜の様に、ユリアーナのベッドの方に近づいていく。この変態ロリコン野郎! 成敗してやるとベッドからそっと抜け出して、後ろから近づいたけど、さすがのあたしも人を殺す気にはならなかったので思いっきり足に刺してやろうと、フォークを持った腕を振り上げた瞬間、変態院長が気がついてこっちへ振り向いた。


 そのせいで、足じゃなくて股間に刺しちゃった、と言うか、正確にはフォークは刺さらなかったみたいだけど、大事なとこに衝撃を与えちゃったみたい。院長は悲鳴をあげて、飛び上がって部屋の中をぴょんぴょんと飛び跳ねたあげく、床にうずくまって股間を手でおさえて、「ヒー、ヒー」とうめいている。その、あまりにも滑稽な姿に思わずクスクスと笑ったら、突然、院長が立ち上がって、ものすごい形相で襲いかかって来た。あたしも必死になって、部屋から廊下へ逃げ出した。院長が追いかけてくる。猛スピードで一階へ下りる階段へ向かったら、その手前ですッ転んじゃった。そしたら、院長は勢い余って、転んだあたしに足を取られてそのままひっくり返って、大きな音出しながら階段を転げ落ちて行ってしまった。一階で変態院長が、「痛い! 痛い!」とわめいている。マリア先生やシャルロッテ先生、一階の大部屋の子たちも起き出してきて、深夜の廊下で大騒ぎになってしまった。


 結局、変態ロリコンのエベレス院長は背中の骨だか、腰の骨だか、打ったのか、折ったのか知らないけど、病院送りになってしまった。まあ、これで、ユリアーナにイタズラはできないでしょう。正直、ざまあみろ! と思った。正義は勝つ。しかし、あたしは矯正院送りということになってしまった。院長は勝手に転んで、階段を転げ落ちて行っただけなんだけどなあ。それに、毎晩のようにユリアーナにイタズラしていた件をしゃべりたかったんだけど、彼女から口止めされているし、そんな事をされていたとは、女の子にとっては恥ずかしいことだよなあと思って、あたしは一切黙ることにした。ユリアーナの名誉を守ってやらねばいけない。そのため、「何でこんなことをしでかしたのか、正直に答えなさい!」とマリア先生に厳しく問われたけど、しょうがないから、「院長の偉そうな口ヒゲが気に食わないので、ふざけてフォークで刺しました」とだけ答えた。偉そうにしていたのが気に食わなかったのは事実なんだけどね。


 と言うわけで、今まで、散々夜中に暴れて困らしたあげくの果てに、院長に大ケガさせたわけで、マリア先生にものすごく叱られた。ちょうど、マルセル事務長がやってきて、「まだ子供だし、なんとか許してあげてやっては」となだめていたけど、マリア先生は、「今度こそは許さん!」と激怒している。


 マリア先生は怒りのせいで、一階の自分の部屋で寝ているはずの院長が、なんで夜中に、それも二階のあたしたちの部屋にいたのかという事には、頭が回らなかったみたいね。その後、マリア先生があたしの右腕、シャルロッテ先生が左腕、フィリップ爺さんに両脚をつかまえられて、地下室まで運ばれて、清掃道具が置いてある狭い倉庫に閉じ込められそうになったんで、必死に体を捻らせて抵抗しまくったけど、あえなく放り込まれちゃった。倉庫の中で、大声だしてわめいたり、鉄の扉をガンガン叩いたり、蹴っとばしたり、飛び蹴りしたり、体当たりしたんだけど、びくともしない。


 そこで、扉はあきらめて、そこら中、倉庫の壁を叩いていたら、隣に空間がありそうな雰囲気がするぞ。どうも音が響いているような気がした。そこでチリトリでガンガン叩いたら壁がはがれ落ちた。これは、うまくいけば穴が空くんじゃないかと、しつこく叩いたら固い鉄製の障壁が現れたんで、こりゃ無理だと、そこで断念。他に方法はないかと考えていたら、床に短い針金が落ちているのを発見したので、それを拾って鍵穴に突っ込んで、泥棒のように開けようと、見よう見まねでガチャガチャやったけど、開かん! 素人には無理ね。


 もう、あきらめて小さいランプが灯る薄暗い倉庫の中、冷たい床の上で、ぼんやり昼寝をしていると、誰かが、階段を下りてくるのに気がついた。倉庫の扉の前に近づいてくる気配がする。さっと起きて、鍵穴からのぞこうとしたら、外から小さい声で、「エイミー、大丈夫?」と呼びかけられた。ユリアーナの声だ。カチリと音がして、扉が開いた。今は昼休みで、孤児院の運動場で児童と先生たちが遊んでいるので、その隙に、地下倉庫の鍵を事務室から盗んできたらしい。気の弱いユリアーナにしてはよくやったなあ、多少は勇気を出したのか。「ありがとう。すごいぞ、ユリアーナ!」とあたしが褒めると、ユリアーナは少し恥ずかしそうにしている。

「私のせいで、こんな事になって、ごめんなさい」

「気にしないでいいよ、それに、あたしは前から、この孤児院から脱走したくてしょうがなかったんだ」

「一人で大丈夫?」とユリアーナから心配されたけど、「あたしは楽天家だから平気よ」と強がった。本当は、そんなんじゃないけどね。友達のみんなと別れるのは寂しいな。けど、こうなった以上、仕方がない。


 あたしは、さっさとこの孤児院からトンズラすることにした。矯正院には入りたくないからね。おっと、さっき拾ったこの針金はどうしよう、スカートのポケットに入れとくか。何かの役に立つかもしれない。この時間は、孤児院の前にある運動場に先生たちがいるから、少しの間、地下室で様子を見ることにした。


 しかし、倉庫の扉の目の前には、例のロビーにあるヘンテコな抽象画と似たような絵が飾ってあるのだが、それを、しばし眺めているとその額縁が妙に歪んでいる。変だなと絵をはずしてみると、なんと、扉が現れたではないか。引き戸式だ。鍵は付いていない。開けてみると、地上へ出る階段があって、どうやら、孤児院の一階の裏口へ続いているようだ。そそくさとユリアーナにお礼と、「他のみんなにもよろしくと伝えて」と頼んで、あたしはランプの点いていない薄暗い階段を、駆け登った。


 上の方から、陽の光がもれてくる。もうすぐ一階だ。出口がある。あたしは扉をこっそりと開けて、誰もいないか確認した後、一気に裏口から飛び出した。今日は晴天だ。そのまま、先生たちには気づかれないよう近くの木の陰に隠れ、孤児院の前にある運動場で遊んでいるみんなにこっそりと、「さようなら、みんな元気で!」と手を振った。誰も気づかない程度にね。そのあと、近くの森の中に逃げ込んだ。

2019/7/11 文章訂正。内容は変わっていません。

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