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第三話:アレックスとクリスに出会う

 孤児院から脱走して、あたしは森の中のけもの道を歩く。時折、後ろを振り返るが、誰も追いかけてくる気配は無い。よーし、脱走成功だ! 木漏れ日のあふれる森の中を歩きながら、木や草、土の匂い、涼しい風や虫たちの鳴き声を、体中に感じる。思い返せば、この十年ほどは、ほとんど孤児院の中で過ごしていたようなもんだ。たまに、先生方に連れられて、近くの丘にピクニックとか、川遊びとかはあったけどね。窮屈な環境から脱出した、この解放感。あたしは、やった! 自由だ! 万歳! と茶色いワンピースのスカート姿でスキップしながら、森の奥へと進んでいく。


 歩いていると、途中でのどが渇いてきた。ひとしきりそこら辺を探し回ると、草に隠れた場所に、きれいな湧き水が流れ出ているのを発見した。両手で何度もすくって、湧き水を飲む。美味しい。しかし、孤児院から、全く準備も無しで急に飛び出してきたので、何も持っていない。水筒くらい持ってくればよかったかなあと、ちょっと後悔していたら、用務員の白髪頭のフィリップ爺さんとばったり出会ってしまった。爺さんは、森に孤児院の修理に使える木材とかを探しに行ってたみたい。「お前、いつの間に地下倉庫から逃げ出したんだ!」と追い回されるはめになった。あたしは、大木の周りをグルグル回ったり、木に登ったり、小石を拾って爺さんに投げつけたりしたけど、しつこく追いかけてくる。やはり、この前、馬の糞をフィリップ爺さんの顔面に投げつけたのがまずかったかなあ。ちょっと反省する。けど、作ったその日に乗ったら壊れる滑り台なんて、大工仕事が下手だと思うけどなあ、フィリップ爺さんは。


 とにかく、逃げ回っていたら、森の中に少し大きい川が流れているのを見つけた。川辺に古い小型のボートがあるので、それを川に押し出して中に飛び込み、操縦の方法がよくわからないけど付いていたオールを適当に漕いで、そのまま川岸から離れて、追ってきた爺さんに手を振ってやった。フィリップ爺さんは泳げないんだ。けど、爺さんが川岸を走りながら、必死な表情で、「エイミー、この川は危険だぞ、戻ってこい! すぐに急流になるぞ! このままだとボートが転覆して、溺れ死ぬぞ!」と、こっちに向かって大声で叫んでいる。あたしも初めてボートに乗って、最初は楽しんでいたんだけど、確かにこの川の流れがけっこう速いことに気がついた。


 すると、何だか周りの景色がものすごい勢いで流れ始めた。ボートのスピードがどんどん速くなって、ひどく揺れるので、さすがのあたしも焦り始めたところ、ちょっとした渓流みたいな場所にさしかかる。これはまずいと思って、必死にオールで操ったんだけど、ついに岩にぶつかって、ボートはひっくり返り、川の中に放り出されてしまった。あたしは泳ぎは得意なんだけど、この流れの速さは、さすがにきつい。何度か溺れそうになって、川の水もたくさん飲んじゃったけど、必死に泳いで、川辺になんとかたどり着いた。


 ゲホン、ゲホンと咳き込み、水を吐いた。死ぬかと思ったよ。なんとか、助かったけど、靴を両方無くしちゃった。やれやれ。まあ、こんなに離れたら、フィリップ爺さんも追ってはこないでしょう。川岸で、ぐったりと横になって少し休んだ。しばらくして、あたしは服がすっかり濡れてしまったので、乾かそうと、川岸で火を焚くことにした。


 そこら辺の枯れ木を拾って、一本を他の木の上に立てて、力を入れて両手で強く回す。フィリップ爺さんがピクニックの時に教えてくれた方法だ。煙が出てきたぞ。あたしは、こういうことは得意なんだ。火がついたんで、枯葉や枯れ木を増やして、息を吹き込み、たき火にして、濡れた服は周りに置いて乾かす。夏で良かったなあ、冬なら凍死してたんじゃないかと、体を温める。暖かいので、うつらうつらとしてたら、つい眠っちゃった。


 気がつくと、たき火は消えていて、服はだいぶ乾いている。陽が落ちてきて、辺りは薄暗くなってきた。服を着ながら、さて、これからどうしよう、お腹も減ってきたなあ、なんか食べ物はないかなあと、裸足で、足の裏が痛いけど、また森の中に入ってみた。


 森の中を歩いていると、なにやら変な青色のグニャグニャとした生き物が、ヒョコヒョコとこっちに向かってやって来た。あたしの腰くらいまである大きさだ。これはひょっとして、モンスターのスライムではないか。なぜか矢が刺さっているけど。これはスライムの中でも最弱の種類じゃないかな。とは言え、たとえ最弱スライムでも、ちっこいあたしには、けっこう強敵だろう。おまけに武器なんか何にも持ってないし。スライムに追いかけられたんで、とにかく逃げるしかない。逃げてたら、ちょっと大きい石を発見したので、それを持って木にスルスルと登る。あたしは木登りも得意なんだ。木の根元をウロウロしているスライム目がけて、石を投げる。見事に当たって、そいつはぐしゃっと潰れた。案外、簡単に倒せたけど、しかし、これは食べられないだろうなあ、ああ、お腹減ったよ。


 ひょいと木から飛び降りると、二人の少年が近づいて来た。マントを着て、剣を持った背の高い金髪の子と、もう一人はやや小柄、茶髪で、顔面がソバカスだらけ。弓矢を持っている。二人とも、小汚い長袖に、長ズボンの服装をしていて、あたしに向かって、「このスライムは俺たちが追ってたんだぞ!」と言いだして、何となく不愉快そうな顔をしている。


 そうなんだ、何だか機嫌が悪そうだなあ、あたしが倒したのが気に食わないのか? スライムに刺さっている、その矢が証明なんだそうだ。スライムなんて食えるのか? とりあえず、「スライムなんていらないよ」と返事をすると、この凸凹コンビは意外だといった表情を見せた。「俺たちの手柄にしていいのか」って聞くから、「いいよ、これ食べられないんでしょ」と答えた。


 急に機嫌がよくなった二人は、「俺たちは冒険者だ」と言いだした。モンスターを退治して、冒険者ギルドから報酬をもらうそうだ。「あたしはエイミー」と自己紹介して、「冒険者ギルドに登録してないから、手柄とか報酬とか関係ないよ、それより腹ペコなの。なにか食べ物めぐんでくれないかなあ」と二人にお願いすると、「じゃあ、俺たちのアジトへ来いよ」と誘われたんで、ついて行った。背の高いのはアレックス、背の低いのはクリスと名乗った。年齢は、アレックスは十五歳、クリスはあたしより一つ上の十四歳。失礼ながら、なんとなく冴えない感じの二人組だけど、一応、冒険者ギルドには登録しているらしい。立派な冒険者だ。


 アジトと言っても、川辺から少し離れた場所にある掘っ立て小屋だ。小屋の横に、大人が一人、入れそうな大きい円筒形の木の釜がある。「これは何?」と聞いたら、「お風呂だよ」って、クリスが答えた。川の水を入れた後、大きめの石をいくつかたき火でガンガン燃やして、その熱い石を中に入れて、水を温めるそうだ。そして、足の裏がやけどしないように、木の板を沈めて、その上に乗って、湯に浸かるんだって。


 小屋の中に入ると、ちっこい台所の他、小さいテーブルと椅子、二段ベッドくらいしか置いてない狭い部屋だ。お、黒猫がいる。しかし、右の前足が短い。よちよちと歩いている。事情を聞いたら、子猫の時に、森の中に捨てられていたようで、そこをスライムに襲われたらしい。クリスが助けてやったそうだが、その際に右の前足の先を失ってしまったようだ。かわいそう。クリスが木で義足を作ってやったが、むずがって、結局、はずしてしまったそうだ。スライムに襲われたことがショックだったのか、めったに小屋を出ないようだ。飼い猫だったらしく、人に対しては、あまり怖がらない。名前はニャーゴ。ニャーニャー鳴くから、そうクリスが名付けたようだ。そのまんまだな。クリスの名付けセンスはあたしと同じくらい冴えないようだ。


 台所でアレックスが、すばやく料理をする。本人が言うには、料理が得意なんだそうだ。ふきのとうの塩漬けやタケノコ煮、果物、イノシシの干し肉などをご馳走になった。全部、この森で調達したらしい。なかなか美味しいぞ。クリスから、「お前、ずっと裸足だったのか」と聞かれたんで、「川でボートに乗ってたら転覆して、溺れそうになって、その時、靴を失くしちゃった」と言ったら、「俺のお古をやるよ」と靴をくれた。その靴は、ぴったりとあたしの足におさまった。


 二人から、「ところで、ボートが転覆したって、お前はどこから来たんだよ」と聞かれたんで、「マルセル孤児院ってとこにいたけど、矯正院に入れられそうになったので逃げてきたんだ」と話したら、「なんで矯正院に」と再度聞かれた。ユリアーナが変態ロリコン院長にイタズラされていた件は内緒にしとかなくてはいけないな。彼女との約束は守らなければいかん。それで、「院長が偉そうな口ヒゲを生やしているので、ムカついたんで、股間にフォークを刺した」って答えたら、それを聞いた二人は、「そりゃ、矯正院行きも仕方がないよ」と爆笑してる。「俺なら、矯正院に送るどころか、死刑にしてやるぞ」とクリスが脅すように言った。そうか、男にとっては想像以上に痛かったのか、一ついい事を覚えたぞ。


 それで、アレックスから、「お前はすばしっこいし、度胸もありそうだから、俺たちの冒険者パーティに入らないか」と誘われたんで、とりあえず行くとこもないし、この二人と仲間になることにした。二段ベッドには、上にクリスとニャーゴ、下にアレックスが寝るようだ。クリスが毛布を貸してくれたので、今夜は、この小屋の床の上で寝ることにした。床は固かったけどね。

2019/7/12 文章訂正。内容は変わっていません。

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