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シュヴェーアトヴァール・降下猟兵

暫くは戦闘と言うより蹂躙だけなのでサクサク侵攻です

もうちょっと待って下さい

 東大陸 コンケート領ラウレル南西部 ラバンデ沿岸要塞西方6キロ






 まだ朝日の昇らぬ暗い空に、巨大な鳥の形をした影があった。いや、それは最早鳥というカテゴリに収まる物ではない。古代に存在したと言う翼竜を思わせるシルエットが、低い風の音を響かせながら東へ向けて飛んでいた。


《こちらギガント1。間もなく作戦地点に到達する。エンジン出力下げ、高度を落とす》


 その内の一匹から、他の翼竜へ向けて細い魔力の波が放たれる。小さな波の中に多大な情報を秘めたそれは、翼竜の中にある機械によって解析・翻訳され、意味のある言葉としてスピーカーから発された。


 やがて返答の言葉が再び魔力の波に変換され、ギガント1と名付けられた先頭の翼竜に返って来る。その数は九――そしてその九匹とギガント1を含めた十匹の翼竜が、隊列を組んで悠々と空を飛んでいた。


 無論、この空を飛ぶ十の影の正体は決して翼竜などではない。翼を動かす事なく、翼に備え付けられた筒から吹き出る風によって推進する生物など、自然界には存在していないのだ。


 当然ながら、そのような機械技術を操るのは人類のみである。この影の正体は、人類によって生み出された航空機と呼ばれる物の中でも、かなり大型に分類される輸送機である。


 SS-T-2A"アルバトロス"。巨大な翼を持つ海鳥の名で呼ばれるそれは、大陸間航行をも可能とする長大な航続距離と、高い輸送能力を併せ持つ戦術輸送機である。


 威容足る巨大な翼を広げて空を飛ぶアホウドリの群れが目指すのは、東大陸南端にある軍港都市ラバンデ。五年前にルントシュテット大将旗下の兵が立て籠もった地であり、現在は上陸を防ぐ為に要塞化されている都市。


「――そしてこれから、我がフライハイトの反攻が始まる都市でもある」


 ギガントアインの腹の中で、大隊長クラウス・A(アルフォンス)・シュトゥデント大佐は不敵に笑った。それを聞いていた周囲の旅団員達も同様に凶悪な笑みを浮かべる。その様は、宛ら悪鬼が群れて開放の時を待ち望んでいるかのようだった。


「三時間だ」


 シュトゥデント中佐が呟いた。


「三時間で要塞を無効化し、海の上からノロノロやって来る鈍亀共を迎え入れる。一週間は持ち堪えるつもりで造られた要塞を、たった数時間で、たった一個大隊が制圧する。愉快じゃないか」

「最高ですぜ。こんなすし詰め状態で何時間も詰められた甲斐があるってもんでさぁ」


 シュトゥデント大佐の隣に座る男がそう言えば、そうだそうだの大合唱が機内全体に広がった。感覚の鋭い獣人――狼人や猫人――を中心に集められた精鋭中の精鋭である彼らは、同時に暴れる事が好きな荒くれ共でもある。


 そんな彼らが本土からの長いフライトに文句一つ漏らさずに座っていられるのは、単にこれからの戦闘が楽しみだからに過ぎない。コンケートが必死になって建造した大規模な要塞を、六百人の大隊が陥落させるという栄誉を成し遂げる時が楽しみだからこそ、今まで暴れもせずジッと席に座っていたのだ。


 ――そして、彼らが待ちに待った瞬間が訪れる事を告げるアナウンスが鳴る。


《貨物室の狩人諸君、間もなく降下開始地点だ。現在高度二七〇、速度は二二〇、無風で穏やかな空だぞ》

「ッシャァ! ハッチ開けェ! 降下準備ィッッ!!」


 座っていた六十人の大隊員が立ち上がり、貨物室前部にあるハッチを開く。途端に強風が貨物室内に吹き込むが、それに臆する者は一人もいない。今まで何度も訓練で体験して来た事に、今更驚く者など存在しないのだ。


 彼らが黙したまま、待つ事数瞬。


《降下開始地点に到達。降下猟兵(ファルシムイェーガー)、降下を開始せよ》


 ギガントアイン機長の合図で、狩人達は一秒間隔で機外へ跳び出す。バックパックから膨らむパラシュート(ファルシム)が、黎明の空に次々と開く。まるで綿毛のようなそれは、数十秒の時間を掛けてゆっくりと地表へと舞い降りて行くのだ。


 ――要塞に籠る臆病者共を引き裂く為に。






---






 黄昏歴1675年 06月10日 05時01分

    ラバンデ沿岸要塞内部






 その日、沿岸要塞を預かるコンスタン・A(アルベリク)・ド・ゴール少将は、獣の咆哮のような音で目を覚ました。轟々と響くその音の煩わしさに二度寝する事も出来ず、脳が覚醒してしまったのである。


「何だね、こんな朝早くから……」


 グズグズと文句を言いながらも、目覚めてしまった物は仕方がないと身支度をする。どの道、あと一時間もしない内に起床時間である。それならばベッドの中でゴロゴロとしているよりも、この轟音の原因を調べる方がよほど有意義だ。


 寝間着を脱ぎ捨て、軍服の袖に腕を通す。その最中、ふと窓の外へ目をやったド・ゴール少将の目に、異様な光景が飛び込んで来た。巨大な綿毛が、ふわふわと降りて来ているのである。


 夢かと思って目を擦っても、綿毛は消える事なくそこに在り続けている。窓に近づいてみれば、広がった視界の其処彼処に綿毛が浮かんでいた。いや、綿毛ではない。あれほどに大きな綿毛など、自然に存在していたら世界を驚かす大発見になるだろう。


 ぼんやりとした頭で思考したド・ゴール少将は、更に不自然な点に気付いた。あの巨大な影は、何故か真っ直ぐに整列した状態で降りて来るのだ。それこそ人為的に並べたとしか思えないほどに、美しく、整然と降下している。


 神秘的なその光景に暫し見惚れていたド・ゴール少将の脳裏に、電撃が奔った。


「司令部! 司令部!! 緊急事態だ、総員起こせッ!」


 次の瞬間、ド・ゴール少将は有線通信機に噛り付いて叫び散らしていた。あれは自然に発生した綿毛などではない。何らかの手段で空を飛んで来た、敵の影なのだ。間違いない、あれは敵なのだ。


「警報を鳴らせ! 今すぐ! 即座に!! 小火器を持って持ち場へ急行させろ!! ボヤボヤするなッ!!」


 その指揮は実に迅速で的確な物であったと言えるだろう。今まで見た事もない戦術の意図を初見で見抜き、要塞内の防衛を命ずる事が出来る将など、殆ど存在し得ぬであろう。ド・ゴール少将は、紛れもなく優秀な将なのである。


 しかし、下々の兵が想定外の事態に対応する事が出来るかと言えば、それは大抵の場合否であると言わざるを得ない。


 連続した炸裂音と、夜間警戒に当たっていた兵の絶叫が要塞各所から響き渡る。それは既に、空から降りて来た敵が要塞に侵入し、奇襲によって掌握を開始している証であった。


 フライハイトの強襲上陸を防ぐ目的で建造されたこの要塞は、浸透強襲に対する防衛能力が著しく欠如している。上陸されたら後退し、野戦を行う事を前提にしているのだから当然と言えば当然であるが、この状況ではその特性が非常に拙い方向へ作用している。


「クソッ!」


 ズン、という揺れと共に切断された通信機を投げ捨て、ド・ゴール少将は身支度もそこそこに寝室を後にする。機密書類の廃棄と、後方に駐屯する守備兵及び天津国との国境線に配備されている軍団からの増援を要請する為に。


 既に彼の脳内では、この要塞を防御するという選択肢は消え去っていた。






---






 黄昏歴1675年 06月10日 05時00分

  反攻作戦『ラプターパラーデ』第一段階

   東大陸上陸作戦『シュヴェーアトヴァール』発動


  フライハイト国防陸軍

   第一軍:総兵力約十七万七千人

    第一軍第一軍団

     第一歩兵師団

     第二歩兵師団

     第三歩兵師団

     第四歩兵師団

     第一山岳師団

     第一機甲師団

    第一軍第二軍団

     第五歩兵師団

     第六歩兵師団

     第七歩兵師団

     第一機械化歩兵師団

     第二機械化歩兵師団

     第二機甲師団

     第三機甲師団

    第一軍第三軍団

 第一海兵師団

     第一航空師団

     第二航空師団

     第一混成旅団

     第一降下猟兵大隊


  フライハイト国防海軍

   第一艦隊 旗艦:ブリュンヒルデ

   第二艦隊 旗艦:ヴァルトラウテ

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