表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/24

シュヴェーアトヴァール・沿岸砲撃

 黄昏歴1675年 06月10日 05時06分

    ラバンデ沿岸要塞西方15キロ






「総司令部より通信。『鯱よ、潮を吹け』です」

「了解。事前の打ち合わせ通り、我々は本隊に追随し、上陸支援と砲撃支援を行う。連合機動部隊はツェッペリン大佐の指揮に従うように」

「了解」


 クレンク中尉の報告に返答しつつ、手元にある豆魔球の小さな明かりを頼りに作戦地図を読み解く。まだ外が暗い上に、隠密性を保つ為に灯火管制を実施している為、この艦橋の中もほぼ真っ暗だ。機器はSFよろしく自発的に発光するようになっているから操作には困らないけど、作戦地図はそうも行かない。


 あーあ、こりゃ発光する机を艦橋にも配置しとくんだったなぁ。帰ったら申請して設置してもらおう。


 そんな事を考えつつ、作戦地図上のラバンデ沿岸要塞の上に青の駒を一つ乗せる。この駒が示しているのは、鯱作戦の要の一つである降下猟兵(ファルシムイェーガー)大隊、所謂空挺部隊だ。精鋭中の精鋭の中から、更に戦闘狂と高い所が好きな奴を集め、洗脳にも近しい過酷な訓練を施した頭のおかしい部隊とも言われている。もしかして:第一狂ってる大隊。


 さて、その第一狂ってる……じゃなくて、第一降下猟兵大隊の任務は、ラバンデ沿岸要塞を奇襲、トーチカ群を分断・混乱させ、第一海兵師団の上陸を支援する事だ。上陸用舟艇に魔導障壁展開装置なんて積めないので、被害を抑える為に無力化はしておかなければならなかったのだ。


 そしてさっきの通信は、大隊が要塞に突入して交戦を開始、今の内に上陸しろという命令だ。僕達第二艦隊――そしてレーダー提督率いる第一艦隊の任務は、上陸する陸軍を支援する事と、展開するであろう敵軍に砲撃と爆撃を食らわせる事だ。


「先行偵察艦より報告。ラバンデ港に多数の光源を確認」

「了解。そのまま偵察を続行するよう伝えて」

「了解」

「……意外と敵の反応が素早いですね」


 偵察艦からの報告を聞いて、先日正式に僕の参謀一号となったマンシュタイン中尉が呟く。僕はそれに頷きつつ、でも、と注釈を入れた。


「明かりが灯ったのは艦じゃなくて港だからね。大方、陸でのんびりとしていた人達が叩き起こされただけじゃないかな」

「なるほど」


 幾らフライハイトの海軍を一度殲滅したからって、気を抜き過ぎだとは思う。この世界では五年もあれば十分に大艦隊の再建が可能だし、先日も一個艦隊を殲滅したばかりなのに。


 まぁ、将校はそうも行かないし、実際うちもその煽りを諸に食らっているんだけど。あと数年は悩まされ続けるんだろうなぁ。


 それはそうとして、今更動き出したコンケートの艦隊など、脅威のきの字にもならない。此処に辿り着くまでには既に航空機が活動出来るようになっているから、空母四隻からの物量攻撃で確実に沈んでくれるだろう。


 仮に抜けて来たとしても、第一艦隊と第二艦隊の主要砲撃火力が集まっているからどうにでもなるだろうけど……。


「揚陸指揮艦より、全揚陸艦に上陸開始命令が出されました!」


 考え事をしている内に、いよいよ強襲上陸が始まった。シルティンセル島から陸軍の兵と兵器達をたっぷり運んで来た強襲揚陸艦のドックから次々と小型の上陸用舟艇が吐き出され、それらが白い軌跡を描きつつ陸に殺到して行く。


 本来であれば、彼らを食い止める役目を持つ沿岸要塞のトーチカは、変わらずに沈黙を保ち続けている。シュトゥデント大隊が良い具合に暴れまわってくれているようだ。


 さて。小型快速の上陸用舟艇は十分もあれば上陸を完了するだろうし、僕達の方も仕事を始めますか。ね、レーダー提督。


「ブリュンヒルデより通信! 『第一陸上砲撃陣形、我に続け』です!」

「了解。航海長、回頭! ブリュンヒルデの後方に着け!」

「了解!」


 マンシュタイン中尉の指揮で操舵輪が回され、巨大な艦影が僕達の正面に移動する。第一艦隊旗艦にして、ブリュンヒルデ級戦艦のネームシップ“ブリュンヒルデ”だ。このヴァルトラウテのお姉さんである。


 普段は外から見る事のないヴァルトラウテと同型の艦の影に、乗組員達の目が吸い込まれているのが分かる。僕だって、何度もあの姿を見たにも拘わらず、その美しい艦影に目が釘付けになっている。


 魔導レーダーと測距義が目立つ檣楼。まるで天使の羽を模したような魔導障壁展開装置。圧巻の迫力を持つ主砲。魔導噴進機関の影響で、まるで某宇宙戦艦のようにシュッと絞られた艦尾。相も変わらず、美しい。


「……アレと同じ艦に、私達も乗っているんですよね……」


 ぽつりと言葉を漏らしたマンシュタイン中尉。元々彼女は陸軍志望だった筈だし、その真面目な性格も相俟って、今は針の筵状態だ。もしかしたら、ヴァルトラウテに配属されている事が苦痛になっているかもしれない。


「不満かい?」


 そんな懸念からつい発してしまった無粋な問いに、マンシュタイン中尉は微笑みながら小さな声で答えてくれた。


「いいえ。上官にも恵まれましたし、私は幸せですよ」

「嬉し恥ずかしい言葉をどうも」

「いえいえ」


 とりあえず何時ものセットを口に咥え、作戦地図の上の駒を前進させる。上陸をしている第一海兵師団と、それを支援する打撃艦隊――ブリュンヒルデ級戦艦二隻と、二つの艦隊の重打撃部隊、合わせて五十三隻の大艦隊。


 目を横に移せば、五年間を過ごして来た戦艦ヴェンデルスの姿もあった。今では旗艦の座を譲り、第一艦隊の構成艦として働いているフライハイト一の殊勲艦だ。今回も、重巡以上の火力で大いに頑張ってくれるだろう。


 他にも五年前から第一線に立ち続けている古参の艦や、シュタールレーゲン級やフランメクヴェル級を初めとする『完成型』に至る前の、試作巡洋艦や駆逐艦が並んでいる。それを動かしているのは、第二艦隊の乗組員の先輩方。艦の性能では劣っていても、それを補って余りあるほどのスキルを持っている。


「全員、ちゃんと見て、学びなよ」


 僕が小さな声でそう言うと、近くの乗組員が小さく笑いながら頷いた。うん、向上心があってよろしい。


 さて、そんなこんなをしている内に大分外が明るくなって来た。まだ暗い事には変わりないけど、甲板と海原の区別は十分に付く。これだけ明るくなれば、上空から地上の観測が可能になるだろう。


 そして現在、敵地上空でのんびりと偵察行動を行っている航空機は十機もいる。


「ギガント隊より通信! 作戦座標5-M-18にて敵軍の展開を確認!」

「良し来た」


 クレンク中尉からの報告と作戦地図を照らし合わせ、赤の駒を座標の位置に置く。丘の上にあって、上陸して来る敵を迎撃するのには丁度良い場所だ。多分、後方には砲兵が展開しているだろう。


 どんなに強力な装備を整えても、上陸後にそれを効率的に運用するのはちょっと無理だ。その隙を突いて戦力を漸減させ、一度引き込んでから一気呵成に追い落とすつもりだろう。水際防衛が敵わない状況では、実にオーソドックスで無難な戦法だ。だけど、気付かれていてはそれも意味がない。


「ブリュンヒルデより通信。『砲撃準備。目標、作戦座標5-M-18の敵軍』」

「了解。砲撃準備! 主砲、副砲、対空砲は榴弾を装填!」

「了解!」


 さぁ、狩りの始まりだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ