02
父に婚姻を告げられた日から数日後にライネル帝国皇帝から正式な文書がイオに届けられた。
『こちらで全て用意する為、身一つで来てもらってかまわない』
要約するとそのような内容だった。
嫁入りの準備は淡々と進んで行き、言葉通りイオのドレスを大量に仕立ててベレンガリアは満足気な様子だった。
そしてついにライネル帝国へ嫁ぐ日がやってきた。
「…私の荷物って、少ないのね」
まとめられた荷物を見つめて、イオは呟く。ドレスだけが異様に多い。あちらで用意すると言われたので大切なものやどうしても持ち込みたいものだけを選んでいったら、王女が嫁入りをすると言うにはあまりに少ない荷物量になった。
「そんなことございませんわ」
慌ててイザベラが言うが、イオは寂しそうな顔をした。帝国の嫁入りの為、イザベラもイオの侍女としてついて行くことになっている。
「帝国に行っても、ずっと一緒にいてね」
「もちろんですわ、殿下。私は殿下の傍にお仕えできてこれ以上の幸せはないのですから」
イザベラがイオの手をそっと握る。温かい手の温度がイオの不安な心に沁みる。
扉を叩く音と侍従の声がかかる。
「イオ王女殿下、出立のお時間にございます」
イオは頷いて立ち上がる。
「行きましょう、イザベラ」
「はい」
イオが王女宮殿を出ると荘厳な装飾が施された馬車が花嫁を待っていた。馬車の傍らには父と母、イオの二人の弟と妹が立っていた。イオが馬車の前に立つと、扉の前に立っていた30代前半の男が一礼する。
「イオ王女殿下、この度の婚姻誠におめでとうございます。ライネル帝国からの使者ならびに帝国に到着するまで護衛を務めさせていただきます。ユリウス・リカルド・ローレンシアと申します」
「…ありがとう存じます。ローレンシア卿、よろしくお願いしますね」
イオも一礼して微笑んだ。
イオはそのまま父と母に向かい合う。
「…お父さま、お母さま、今まで、大変お世話になりました。帝国へ嫁ぎ、務めを果たしてまいります」
「あぁ、務めを果たせ」
冷たく父はひと言を言っただけだ。母はイオに近づき頬を撫でる。その優雅な指先に誰もが見蕩れるだろう。
「今日も本当に美しいわ、イオ。仕立てたドレスもきっと似合うはずよ。それだけ美しいのだもの、シャルールにたくさん可愛がってもらうのよ」
「…はい、お母さま」
国王と王妃の様子を見ていたローレンシアは眉をひそめる。これが、娘を送り出す親の姿なのだろうか。
「ねぇ、姉上っ」
6歳になる双子の弟たちがイオの手を掴む。
「次はいつ帰ってくるの〜!?」
「またご本読んでよ〜!」
自分にも優しくしてくれる弟たちに涙が出そうになる。ここに戻ってくることはきっとないだろうから。
「またいつかね」
「えーー!」
「やめなさいよ!お姉さまが困ってるでしょ〜!」
妹が弟たちに割って入る。その瞳には涙が溢れていた。
「…お姉さま、いってらっしゃいませ。モネはお姉さまみたいな綺麗な人になります」
「…えぇ、楽しみにしてるわ」
イオはモネの頭をそっと撫でて、馬車へと乗り込んだ。出立の声が聞こえ、馬車が進み出した。窓から王城を見上げる。
『――さようなら、エルドラド』




