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三話 「その程度」でしかない男の呪い

高校時代、何もかもが思い通りだった。隆志以上にモテる男はおらず、すこし微笑みかけるだけで数多の女達が甘く媚びを売ってきた。そんな中で瞳だけが真面目な顔で話を聞き、アイドル扱いせずに接してきた。


…彼女だけが心から惹かれてくれた、という事かもしれない…


安いアパートの隅でうずくまり、火の消えたタバコを咥えている自分が惨めでならない。そんなときほど輝かしかった高校時代を思い出してしまう。


「瞳… 勝手に会社を休みやがって! 何してんだよ…!」


一年目は瞳の信頼に応えようと努力したし、少しでも売れれば二人で祝ったりもした。女としてではなくても可愛いと思えた。だが、今では……


瞳の変わらぬ信頼が隆志の心を苛立たせるようになってしまった。なぜか? 分かっている。芸能界に籍を置く者としての隆志は、いわゆる「モブ」でしかないからだ。


ドラマで主役を狙ってやると意気込んでも演技派になれない。雑誌で表紙を狙うと言ってもライバルは星の数以上に存在し、時には事務所から大金を積まれてごり押しされるモデルもいる。


親が資産家だったり、大御所芸能人だったり… そういった背景を利用する芸能人は数多存在し、イケメンキャラで売り出す男も星の数ほど… 真に売れて成り上がっていく男は幼い頃から生き方が違うのだ。


「瞳のやつ… おっせえな…!」


瞳に八つ当たりしても思い浮かぶのは数多く存在するライバルたち。その中でも彗星のごとく現れた悪魔的な魅力を持つ男が一人…


「東城彰人…!!」


呟くだけで嫉妬混じりの憎しみがこみあげる。


東城彰人は同じ事務所の中でもトップクラスの人気を誇る男だ。必ず超えてみせると豪語してみせたのは懐かしい記憶で。東城彰人の悪魔的な魅力と存在を知らない瞳だけが心から応援してくれていた。


その信頼に満ちた瞳の眼差しをめちゃくちゃにぶち壊してしまいたい。本当の俺はこんなにくだらないんだと嘲笑ってしまいたい。だけれど…


瞳こそが本物の輝く星や宝石のように見えて、できなかった。隆志にできたのは一緒にいる時間を減らすこと… 彼女の稼いでくる少ない金を消費することでしかなくて。


安い酒と女に溺れていれば、すこしは気分も紛らわすことができた。瞳がどう思うか? 最早、どうでもいい事で。いつの間にか淡い愛しさも消えて、サンドバッグ代わりにしてしまえる自分がひどく惨めで…


「高校時代、か…」


瞳以上の女は幾らでもいるからと手を出さなかった。というより、手を出せなかった。こういうのを聖域のような、とか天使や女神のようと言うんだろう。だとしたら、俺は……


「悪魔にでもなれれば、なんか違うのかよ…!」


苛立ちを紛らわすために冷蔵庫を漁り、最後の発泡酒を取り出す。一口呷れば、すこしは気分も穏やかになるから。



「俺は間違っちゃいねえからな!!」


誰にともなく当たり散らしてみても信じてくれる存在さえいないのでは、惨めになるだけだ。…分かってる。高校時代、少しでも真面目に働くことをしていれば何かが違ったんだと。


田舎の高校で随一のモテ男だったとしても、「その程度」でしかないんだと割り切り、成績を気にするなり大学を目指すなりしていれば…


スカウトマンの誉め言葉と隆志を取り巻く女達にのせられて、安易にモデル兼俳優などという道を選んだのが間違いだったのだ。


瞳はいつか隆志を捨てるだろうか? 捨てて、幸せになるんだろうか……


考えて笑いがこみあげる。それだけは防ぎたい。ともに行くなら地獄までも。そういう女の一人くらいいたっていいはずだ。


「お前だけを幸せになんかさせてやらないからな…!!」


その黒い目に浮かぶ淀んだ輝きを曇った夜空だけが見ていた。


輝く星のような宝石のような心を持っている瞳、趣味は料理にお菓子作りに裁縫という地味な女… 隆志を妄信し続けている愚かすぎる女だ。


「そうだよ。努力は時に人を裏切る…! 思い知らせてやればいいんだよ!」


誰もいないアパートの隅で、隆志は延々と呪いめいた言葉を吐き散らしていた。お金がないのでは酒も女遊びもできない。夜職に身を落とすこともしない瞳が悪いんだと八つ当たりし続けて……

隆志視点はごちゃごちゃになってもいけないのでやめておきました( ^^) _旦~~ お付き合いいただきありがとうございました。感想お聞かせくだされば幸いです。

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