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第二部 四話 バラ園で初めての口付けを

※大人のキスくらいの描写あります。

結局、俺は瞳を夜のデートに誘うことにした。瞳は家政婦のいる暮らしに慣れていないから、気疲れしているだろうというカイルとアランのアドバイスを受け入れた結果でもある。


俺にとって家政婦や運転手つきの車っていうのは日常だったけれど、瞳からすれば御伽噺に近いらしい。…すぐ慣れてくれるかというと、そうでもないと言うから人間というのは難しいものだ。


「彰人さん、よかったの? 明日も忙しいはずなのに…」


運転手付きの車の後部座席に並んで座った瞳がどこか憂いを帯びた顔で心配してくれる。俺はそんな彼女の肩に腕を回して抱き寄せると、


「春咲きのバラを君に見せたくなっただけさ。明日は明日になってから考えればいい事だよ」


額にキスを落として告げた。あまり時を積み上げることなく、一足飛びに恋人関係になったからか、それとも18歳の時から誰にも触れられることなく生きてきてしまったからだろうか。


これだけの触れ合いでも顔を赤らめてしまう。それなのに、どうしてこれ以上を望めただろう。だけれど、その気配りこそが憂いの原因になっているというなら……


「はい。そうですかって納得するわけにもいかないけれど… でも、夜の庭園を散歩っていうのも素敵よね。彰人さん」


「そうだろう? ホテルに部屋を予約したから、二人きりでワインでも交わそうじゃないか。たまには家政婦のいない時間を楽しむのも悪くない」


「はい。その為のオシャレだものね。楽しまないと」


瞳の日常はどうだったのか? 悲惨なものだったのは想像に難くない。だからこそ、今は御伽噺のお姫様のようでいてくれたら幸せになるだろうと考えていた。それこそ単純すぎて児戯に過ぎないと失笑が漏れるけれど…


瞳はサンドリヨンのような暮らしを強いられたけれどお姫様じゃないし、俺も王子様でなく純血の悪魔だ。いつか魔王サタンの名と地位を継がなければならない。でも、それでも今は……


俺は躊躇いを振り切るように車から降りた。そして、普段通りに瞳をエスコートして庭園を案内していく。夜遅いからだろう。来客はさほど多くなく、それなりに有名人であるはずの俺に気付く者もいなくてありがたかった。


「それにしてももっと近くにあるはずなのに、どうしてこのバラ園を選んだの?」


「君は知らないかい? ここは日本で初めて青いバラを咲かせたバラ園なんだよ。一時はその珍しさから話題になったけれど、今は青いバラも珍しくなくなってしまったからね。こうしてのんびりするには具合がいいと思ってね」


瞳の手を引いて歩きながら説明してやる。瞳はその話を聞きながら色とりどりのバラを楽しそうに眺めていたが、家政婦の話では美鈴さんや詩織さんから色々とオープンすぎる話を聞かされているんだという。


あの二人は幼い頃からの付き合いという事だから、瞳の前だという事も忘れて話が弾んでしまったんだろう。


「瞳、君にとっての日常はどんなだったろうとよく考えるよ」


「私の…?」


「君にとってはアパートでの慎ましい暮らしこそが幸せだったのではないかとも思うんだ。だからといって、あの苦労ばかりの日常に戻ってほしくない。すまないね」


庭園の片隅に置かれていたベンチに並んで座り、そんなことを明かしてしまう。こんな弱音じみたことを語るのは俺のプライドに反するけれど、嘘でもないから困る。


「彰人さんったら…! 私、今までになく幸せだよ。だって、家政婦さんは優しいし、いつもあなたが帰ってきてくれる。私と同じくらい、あなたにも幸せでいてほしいと思ってるのに…! そんなことを言わないで」


「俺に? 俺こそがこの上なく幸せだと思っているのに… だけれど、俺は悪魔だ。人間の細かくて繊細な心の在り方が分からない。努力してはいるけれどね」


そう明かした瞬間、瞳に抱き寄せられた。細い腕が俺の首に絡んで、ようやくきれいになった手が俺の頬をそっと包んで、


「あなたの努力してることも全部知ってる。知ってるから、私は早く幸せに慣れないといけないって思ってた。あなたが幸せでいてほしいって思って、色々と気配りしてくれているのも分かってたから」


涙を滲ませながら笑いつつ言ってくれた。彼女の少し冷えた手をそっと包み込んで、


「そうか… 君は全て知っていたんだね。分かっていたから、幸せであろうと努力してくれていたなんて。俺は愚かの極みだなあ」


そっと額を重ね合わせながら言った。


プラトニックを否定するわけではない。それこそが理想だと思っていた。だが、俺はなんと思いあがっていたんだろう。俺は不老不死を許された神や天使族じゃない。


愚かしくも浅ましい悪魔族だ。カイルやアランより上位種だからと、多少のプライドを持っていたとしても、不老不死を取り上げられ、命を弄ぶ術を取り上げられ、人間界という異界へ逃げ込むしかなかった弱者だ。


「君に触れてもいいのかな。俺は悪魔だ。カイルやアランのようにセクシュアルな触れ合いがなければ生きられないというわけじゃない。そんな俺に許されるだろうか……」


「許すよ。あなただからこそ触れてほしい。一番近くへ来てほしい」


目尻から涙を滲ませたままで告げた瞳を強く抱き締めて、初めてその花びらのような唇に触れた。ただ重ねるだけの甘酸っぱいものじゃない。


角度を変えて幾度も重ねるような濃密なもので、瞳からすればついていくのもやっとのキスだったかもしれない。


「君を誰とも分かち合いたくない。過去は隆志に捧げられたとしても、現在と未来の君は俺だけのものにしておきたい。…結婚しよう」


長いキスの後、俺は額を重ね合わせて告げていた。


指輪もなにも用意していないけれど、この夜にこそ言わなければいけないと思った。全て完璧でなければ許されないと思い、そうであるように努力も惜しまなかった東城彰人が勢いに任せるなど… とんだ失態だ。


「はい。私、あなたのお嫁さんになりたい。あなただけに捧げるから」


この瞬間の喜びを何に例えたらいいだろう。もしかしたら、それは不老不死にも勝る喜びかもしれない。


不老不死の代償が愛し合う喜びなんだとしたら、神や天使族の生涯のなんと薄っぺらいものだろう。こうして求め合える悦びを誰とも分かち合わぬまま、永劫の時を生きていかねばならないなど…


そんなものは拷問以外のなにものでもないというのに…!!


神や天使族に憎悪ではなくても羨望に近い気持ちを抱いていたんだろうか。無意識に… 最終戦争で敗北した悪魔族を悲観して、先祖を恨んで。だけれど、今の俺には瞳がいる。これ以上の幸せなど存在するだろうか。


「俺の悪魔としての名はベリアル… ベリアルだ」


「ベリアル… 私には神様や天使みたいに見えていたのに、本当に悪魔だったのね。彰人さんって」


冗談めかして言った瞳を抱き上げた。出会った時より重みが増してはいたけれど、やはりまだ軽くて。このまま抱いて良いのかと躊躇うほどだった。


「ホテルに部屋って… 最初からそのつもりだったの?」


「さぁ、どうだろうね。とりあえず、近いうちに時間を作るから指輪でも買いに行こうか」


互いに気恥ずかしくて。照れ混じりにそんなことを語り合う。けれど、躊躇いはなかった。

彰人さんの悪魔としての名前はほんと~に悩みました(-ω-;)

結果としてベリアル様に決定しました。魔王サタンの跡継ぎだってのに、架空の名前ってのも逆におかしいのでね( ゜д゜)ウム まあ、似非ファンタジーなので軽く楽しんでくだされば幸いです。次回は軽くエッチあり。R17.9くらいでギリギリを狙っていきます。お付きくだされば幸いです。感想お聞かせくだされば幸いです。

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