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第二部 三話 幸せになることとしてあげること

カイルとアランとは幼い頃からの付き合いだ。純血の悪魔として屋敷に引きこもっていることを強いられた俺はそう何度も付き合えたわけじゃないけれど…


「どうかしたかな? 気分の落ち込みを感じるよ。アキ」


「そうだぜ。せっかく舞台の再演が決定したんだ。もっと喜べよ」


「まあ、そうなんだけれどね。俺はこんなにこらえ性がなかったかと自虐に陥りそうになっていたんだ」


黙っておかなければならないこともあっさり口から出て行ってしまう。ここはインタビューの為に貸し切りにしたホテルの一室へ向かっている最中で。


「瞳さんとのことでなにかあったんだね?」


「十中八九、そうだろうな。お前を悩ませることができるのはあのお嬢さんくらいなもんだ!」


違うと言い切れないのが辛い所で。二人が出勤時間を早めてまで俺に会いたがったのは、シェイクスピア四代悲劇の舞台が高評価だった事から、再演が決定したことを教えたかったからで。


それ自体はやりがいのある仕事だったし、喜べたのだけれど… この二人を前にして瞳とのじれったい距離感を埋められないなどと、どうして言えただろう。だけれど、黙っていることも辛くてならず…


「正解さ。この東城彰人が愚かしいものだよ。瞳の唇にさえ触れられないと悩んでいるんだから」


遠回しに清らかな関係のままなんだと明かすと、二人の空気が一瞬にして固まる。数秒の後、いち早く立ち直ったアランがいくらか深刻そうな顔で、


「お前さ、EDじゃないよな?」


と大声で言うのはためらわれたんだろう。声を潜めて囁く。同じことを考えていたんだろう。カイルも苦笑混じりに頷いている。


「お前でなければ絶縁している不愉快な質問だ。が… 機能に問題はないと言っておくよ」


「それじゃなんで? 俺達の中で一番モテたのはお前だったのに」


根が素直なアランの質問にどう答えたものかと悩んでしまう。カイルはインキュバスの本能と性欲が、アランは吸血衝動と性欲が密接に絡み合っている。だから、愛しく思うレディに手を出すことはためらわなかっただろう。


だけれど、悪魔は違う。


インキュバスやヴァンパイアのように性欲と密接に絡み合う衝動など存在しない。だというのに、そのはずなのに……


「俺はお前達と違うというのに、悪魔族だというのにね。瞳の魂まで食い尽くしたくてたまらなくなる。このまま庇護していたいのに、矛盾していて嫌になるよ」


ためらい混じりに語ると、カイルは呆れ交じりに笑って…


「魔族の上位種であるお前がそこまで悩むなんてね。瞳さんのこともそこまで深く思っているなんて不思議な気持ちだよ」


と分かりそうで分からないことを返した。アランも納得した顔で頷いている。分からないのは俺一人のようでプライドを傷つけられたが…


「どういうことかと訊くべきかな? カイル、アラン」


プライドを傷つけられた怒りを飲み込み、平静を装って問いかける。


「俺やアランだって戦ってきたという事だよ。魔族としての本能とね。幸いなことに俺は詩織と、アランは芹那さんと出会えた。だからこそ、思ってしまうんだ。どうしてごく平凡な人間ではいられなかったんだろう、とね」


「そうだよ! 芹那の血がなければ、俺は生きることも許されない。だからこその出会いに感謝もしてる。けどな!この生まれを恨みこそすれ、喜んだことなんてないんだぜ」


産まれについてどう思う? と尋ねるだけ無駄だった。俺達三人は稀有にして孤独な純血の魔族として、これからも生きていくしかない。ならば、それが運命だと受け入れるしかない。呪っても葛藤しても意味はないと思っていたから。それに俺はどこかで喜んでいたから…


純血の悪魔族、次代の魔王サタンに産まれたことを誇りに思ってもいて… 相応の存在でありたいと思ったし、その為の努力は惜しまなかった。必ず結果がついてくると分かっていたから。けれど、二人は違うと…? 瞳は…?


「瞳さんだって、ただ貧乏暮らしから逃げるためだけにお前を選んだわけじゃないと思うよ。彼女がなにを願ったのか? それを忘れちゃいけない」


「そうそう。お前は色々恵まれてるし、頭いいからさ。もっと要領よくやってると思ったけどな。でも、根本はやっぱり俺達と変わらないな。ま、気分転換にデートでもしてやれよ。きっと喜んでくれるぜ!」


「幸せにしてあげているつもりでも、瞳さんがその通りになるとは思えない。もっと大事なことを見落としているはずだよ。アキ」


カイルの言葉は静かに深く重く、俺の心にのしかかった。瞳のことを大事に思うあまり、その惨めすぎる人生まで受け止めたつもりになっていたと?


どこかで憐れんでいなかったと、そう言えるだろうか……? いや、いや…


瞳は恐らく気付いていたかもしれない。瞳を道具扱いしてはいけないと思いながらも、自分の持つマニュアル通りにしようとしてはいなかったか?


けれど、瞳は違うのだ。それなら、俺にできることは……

お待たせしました( ^^) _旦~~ 次回はちょっと頑張ってもらうつもりです。プロット通りかもしれないし、そうでなくなるかもしれませんし( ゜д゜)ウム 興味を持ってくだされば幸いです。感想お聞かせくだされば幸いです。

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