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第二部 プロローグ 屋敷で甘い朝食を

強力粉と薄力粉を200グラムずつ、無塩バターは100グラム、ベーキングパウダーを12グラム… と正確に材料を計量していく。


「奥様、なにか手伝いましょうか?」


「えぇ、ではプレーンヨーグルトと卵を計っておいたので混ぜてください。このままじゃ朝食が遅れてしまいそうで…」


「畏まりました。では、ついでなので残った材料を片付けておきますね」


割ぽう着姿の家政婦さんにお礼を言いつつ作業を続ける。奥様という単語がまだ少し恥ずかしく感じるけれど。


カイルさんから教わったレシピ通りに小麦粉とバターを丁寧に混ぜ、家政婦さんが混ぜてくれた玉子とプレーンヨーグルトを入れて生地をまとめていく。


冷蔵庫に入れて生地を冷やしている間に作り置きのサラダを盛りつけたり、ポタージュスープを鍋に移したりして… オーブンを190度に予熱しながら冷やした生地をセルクル型でくりぬいて、17分ほど焼いて完成。


「見た目はきれいに焼けたけれど… 美味しく食べられるかな」


「そんなご謙遜を… 彰人様がお喜びになりますわ。初めてでここまできれいにできたんですから」


褒めてくれる家政婦さんに照れ混じりにお礼を言うと、焼き立てのスコーンをお皿に並べて、家政婦さんの出してくれたジャムを小皿に盛り付けていると、


「奥様、彰人様がお目覚めになりました。先に身支度をなさるそうです」


家政夫さんがダイニングキッチンのドアを開けて、教えてくれた。


「あらら、もうそんな時間ですか。朝ごはんももうすぐできる頃だとお伝えください」


家政婦さんと家政夫さん。夫婦で彰人さんにお仕えしている人達だけれど、二人とも幼い頃から彰人さんの躾と養育を兼ねてきたんだとか…


両親は彰人さんを嫌っていて、同じ敷地内で暮らしているのにご飯も一緒に食べたことがないらしい。曰く、純血の悪魔として産まれた彰人さんに苦手意識を持っているんだとか。


「あとはフルーツを切ってミルクティーを淹れるくらいですけど」


「はい。では、ではそのようにお伝えいたします」


ドア付近に立ったままで言うと、家政夫さんがダイニングキッチンから出ていく。…いわゆる富裕層の暮らしって今でも慣れない。だって、私はどう考えても貧困層だったんだもの。


「昨日はフレーバーティーにしたから、今日は彰人さんの好きなセイロンティーにして…」


オレンジを切りながら漏らすと、家政婦さんがすかさずセイロンティーの缶を作業台に置いてくれる。私は気恥ずかしくなりながらお礼を言う。そして、切ったばかりのオレンジを盛りつけて、ミルクティーの準備に取り掛かる。


コーヒーも飲めるけど、紅茶の方が好きな彰人さん。実は家事一切を家政婦さん夫婦に甘えっきりで自分ではお皿も洗ったことのない人。だけれど、趣味でカクテルのほとんどを作れる不思議な純血の悪魔… 私の恋した人。


「おはよう。たまには同じ時間に起きてほしいな。瞳」


ダイニングキッチンに姿を現した彰人さんは悪魔だなんて信じられない爽やかさだ。ブルージーンズに白いシャツでシンプルな格好だけど、間違いなく悪魔なんだよね。


「おはよう。それじゃ朝ごはんを作れないわ。彰人さん」


「悩ましいなあ。君の朝食は俺も楽しみにしているしね。スコーン、カイルから教わったんだね」


そんなことを言いながらキッチンに入ってきて、淹れたばかりのミルクティーを注ぎ分けていた私のこめかみ辺りにキスをする。


視界の端に部屋から出ていく家政婦さん夫婦が見えた。気を使ってくれているのが恥ずかしいような嬉しいような…


「そうなの。おばあちゃんから習った和食も好きだけど、昔から本格的なスコーンって憧れだったから。買うと高いし、焼き立ての方が美味しいし」


「では、カイルに和食を教えてやってほしいな。できないことはないだろうけど、あいつは昔から洋食ばかりでいけない。好みの問題なんだろうけれど」


そう言いながら作業台からカップを取り上げ、テーブルに並べてくれた。


ここでの彰人さんはどこか寛いでいて楽しそうだ。幼い頃から暮らしてきたんだから当たり前だけど。…離れという割に広い屋敷で昔から家政婦さん夫婦に育てられて、親の愛を知らなくて。


ハーフだとか純血だとか。そんなのが愛情を抱けないくらい大きなことなのかな。ただの人間でしかない私には理解が追い付かない。


「さあ、おいで。君の自慢のスコーンを堪能しようじゃないか」


「自慢って… 初めて作ったのにそこまで自信もてませんってば」


「俺が自慢したいのさ。あぁ、そうだ。冷める前に画像撮っておくかな。今日、仕事でカイルとアランに会うんだ」


笑みを交わしつつそんなことを話して、二人きりで朝食を摂る。ようやく慣れてきた甘酸っぱい日常。だけれど、私達はまだキスもしていない。…それは契約書のせいなの?


考えるだけでチリッと胸の奥底が痛んだけれど、ダイニングキッチンに広がるバターの甘い香りと、スコーンにかじりつく彰人さんがなんだか可愛らしくて、忘れてしまった。考えちゃいけない。今は幸せでいなきゃいけないから。

お待たせしました( ^^) _旦~~ 第二部、悩みました( ゜д゜)ウム 全年齢向けの限界に挑戦しなければなりませんのでね。久しぶりにR17.9くらいになるかもしれません。お付きくだされば幸いです。感想お聞かせくださればもっと幸いです。

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