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生きとし生けるものたち  作者: 鹿角 望月
森に住む者
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森に住む者⑥

 ミモザが去り、アカシアも人間の死体漁りを一度止めることにした。


 他のエルフが来ると厄介だ、と判断した。


 しかし、自分の家に戻るのも危ない気がする。


 もし、逃げ延びた人間がいて、鉢合わせれば無事では済まないだろう。


 どうしたものか、と悩んでいると、宣言通りにミモザはすぐに戻ってきた。


「村の広場にみんな集まってるみたいだ。行ってみよう」


 アカシアは今まで、他のエルフと関わりを持たずに生きていた。


 それは、余計な軋轢を生む事でミモザに迷惑がかからないようにするためでもあった。


「大丈夫。アンタが思ってるような事にはならないよ」


 そう言って歩き始めたミモザの後を追う。


 広場、と言ってもやはり、そこはただの森に違いは無かった。


 木の生えていない範囲が少し広い程度の違いしかないように見える。


 そこに、大勢のエルフが集まっていた。


「皆の者!今夜魂迎え(たまむかえ)を執り行う!」


 その中央で声を上げるのは、背が高い男のエルフだった。


「アイツはオババの側近だね。こっからは見えないけど、横にオババが居る」


 魂迎えは、死んでしまった親しい者の肉体を大地へ送り、残された者が魂石こんせきを取り込む儀式だ。


 魂石を取り込むことで、持ち主の記憶と魂を受け継ぐことができる。


「この度の魂迎えは襲撃に備え、参加しないものは警備に当たれ!そして明日、荷物を持ち、我々は新たな土地へ移動する!」


 側近の言葉に、エルフたちは戸惑いを隠せない様子で、ざわめきが一気に大きくなった。


 しかし、声を挙げて反対する者は居なかった。


 皆、人間の脅威を思い知ったからだろう。


「移動する先は、西の沼地だ!」


 西の沼地、と聞いてアカシアは思い当たる場所があった。


 村からかなり離れた場所に、誰も住まない沼地がある。


 地面はぬかるみ、エルフの身長よりも深い底なし沼が目に見えず存在し、その上、悪臭が酷く誰も近寄らない場所だ。


「あんな場所に住めるのか?」


「住めるよ。ここも昔は沼地だったんだ」


「嘘だろ!どうやって……」


 ミモザは答える代わりに小さな皮袋を差し出した。


 アカシアはそれを受け取り、中身を確認する。


 魂石が入っていた。


 濁った、濃い深緑色の魂石だった。


「これは、アンタの母親の『トネリコ』の魂石だ。知りたいことは全部、それが教えてくれる」


 アカシアは、驚きながらも手の中にある魂石を握った。


 聞きたいことも、知りたいこともたくさんあった。


 しかし、それらは全てこの魂石が教えてくれるのだろう。


「ただし、トネリコの魂を迎えるかはアンタ自身が決めるんだ」


 ミモザの仮面から見える瞳は真っ直ぐで、覚悟を確かめるようだった。


 魂迎えを行う。


 つまりは、他者の魂石を体内に取り込んだ時に起こる事は幾つかある。


 まず、宿主の魂石はその色を吸収して濃くなる。


 そして、宿主は純粋な身体の強さを増す。


 そして何より、その持ち主の魂を受け継ぐ事ができる。


 見てきた事や聞いた事。今まで覚えた全部。


 暑さや寒さ、痛み、五感、体験、感情、喜怒哀楽の記憶。


 考えや経験、知識などの体験を、まるで自分がしてきたように感じる。


 だからこそ、色の濃い魂石を迎えた時、自分が大きく変わってしまう場合が多い。


「それだけ濃い魂石を迎えたら魂の形が大きく変わる。そうしたら、アンタは今までと同じようには生きられない。だから……」


「迎えるよ。俺は、知りたいんだ。母親の事も、人間の事も、全部」


 アカシアはミモザの言葉を遮り、答えた。


「アンタは、そう言うと思ってたよ。……さぁ、早く準備をしようか。魂迎えの儀式は初めてだろ」


 ミモザは妙に浮かれた様子でアカシアの背中を軽く叩き、先に進む。


「祭壇に行くんだ。儀式はそこで行う」


 気がつくと木々の隙間から夕陽が差し込んでいた。


 アカシアを置いて進んでいくミモザの後を追う。


 広場に集まっていたエルフはすでに解散していた。


 すれ違うエルフと目を合わせないように、少し俯いて歩く。


 祭壇は広場の中央にある一際大きな大木の事を指すようだ。


 ミモザは大木の前に立つ、オババと呼んでいた小さなエルフと話をしている。


 オババや側近、その周辺に立つエルフの視線が時々、アカシアへ向けられ、その度に気まずい思いをした。


 自分がこの村で魂迎えの儀式を行う事を拒否されるのでは、とアカシアが思い始めた時、ミモザの呼ぶ声が聞こえた。


「早く来な。アンタは特別に、今から魂迎えを行う事になった」


 ミモザがそう言う間に、オババは大木に開いた穴に入っていく。


 慌ててアカシアも後を追う。


 穴に入る瞬間、ミモザの声が聞こえた気がした。


「さよなら」と。


 後ろを振り返ると、すでにミモザの姿は無かった。

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