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生きとし生けるものたち  作者: 鹿角 望月
森に住む者
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森に住む者⑤

 カエデは、横たわるエルフの側にいた。


 カエデの肉親なのだろう、という事は何となくわかった。


 怪我を負っている上に、意識はない。


 カエデが怪我の状態を、焦りを隠しきれない様子で確認している。


 ミモザと同じく()()()()に撃たれて木から落ちたのだろう。


 戦いの途中でアカシアもその瞬間を目にしていた。


 怪我の様子を見るに、撃たれた傷ではなく落下の衝撃で気を失っている様だった。


「カエデ。これを使ってくれ」


 カエデに持っている傷薬を全て差し出す。


 カエデはお礼を言いながら治療を続ける。


 アカシアにはできる事は無かったが、何となく、ここを離れない方が良い気がした。


 今、カエデを1人にはしたくない。


「……ごめんなさい」


 カエデが不意に呟いた。


「私のせいで、ミモザが……」


「ミモザは大丈夫だ。あれぐらいの傷ならすぐに治る」


 エルフの傷薬の効果は強い。


 聞いた話では、熊と戦い身体が千切れかけても傷薬でくっついた、と言われているほどだった。


「でも、あの傷だと、弓を引けなくなるかもしれない」


 カエデが心配している事は、アカシアも考えない様にしていた事だ。


 傷薬は傷を治すことが出来るが万能ではない。


 大きすぎる怪我に使うと、外見は治せても、後遺症が残ることがある。


「それでも、生きてる」


 アカシアの答えは慰めや取り繕ったものではなく、本心だった。


 生と死の間には、大きな差がある。


 その差は、たとえ魂迎えでも決して超えることのできないものだとアカシアは認識していた。


「おーい。薬を貰ってきたよ!」


 大声と共に現れたのは男のエルフだった。


「もう大丈夫だよ、お父さん。薬はアカシアに貰ったから」


「そっか。良かった……」


 カエデは怪我の内容を、お父さんと呼んだエルフに報告している。


 こっちはもう、大丈夫そうだ。


 アカシアはもう一度、ミモザの様子を見に戻ることにした。


 離れるアカシアに気づいたカエデが叫ぶ。


「ありがとう、アカシア。()()助けてくれて、本当にありがとう!」


 感謝され慣れていないアカシアは照れ臭さを隠しきれず、足早に離れる事にした。


 しかし、少し歩くとすぐに別の現実が嫌でも目に入る。


 カエデとその家族は怪我を負いつつも無事だった。


 しかし、他のエルフは違う。


 死んでしまったエルフの亡骸に、縋り付く様にして泣くものもいる。


 死んでしまったら、傷薬では治せない。


 ミモザの元へ急ぐアカシアの目に敵の死体が写った。


 今回の襲撃の主であり、多くのエルフを殺し、傷つけた怨み、恐るべき相手。


 その死体から、目が離せなくなった。


 似ている。と、思った。


 それは戦いの最中にも抱いた違和感だった。


 あまりにも、エルフに似すぎている。


 アカシアの身体が、まるで死体に吸い寄せられる様に、足が前に出る。


 見ない方が良い。そんな予感がする。


 早く、ミモザの元へ行かないと……。


 それでも、確かめずにはいられなかった。


 近づいて見ると、尚更、疑問は大きくなっていく。


 身に付けている装備はやはり違う。


 それでも。


 顔も肌も。身体の作りも。


 エルフと瓜二つだった。


 違いは()だ。


 エルフの様に細く尖っていない。


 丸く短い。


 それは、アカシアと同じ型の耳だった。


「そいつが人間(ニンゲン)だよ」


 声の主は、ミモザだった。


 人間(ニンゲン)


 アカシアはその名前を、ミモザから聞いたことがあった。


 狡猾で恐ろしく、忌むべき敵。


 もし仮に、人間に捕まったら自らの手で命を絶つこと。


 捕まれば、死ぬより恐ろしい目に合うことになる、と。


 アカシアは実際に人間を目にするのは初めてだった。


 だから、初めて知った。


 これほどまでにエルフと人間が似ていること。


 そして、アカシアだけが人間と同じ耳の形であること。


 それはミモザから聞かされてこなかった生まれや両親のことに関わることだ。


 その疑問はアカシアの中にずっとあった。


「アンタは紛れもなくエルフだよ」


 アカシアの疑問を見透かした様にミモザは言った。


 しかし、アカシアの興味はすでにそこには無かった。


 アカシアにとってはそれ(自分の生まれ)よりも大切な事がある。


 動かない人間の死体の持ち物を漁り始めていた。


「アンタ、何をしてんだい⁈」


 言うよりも早く、アカシアはすでに人間が使っていた()()()()を手に持っている。


 見たことのない素材でできた黒い筒に、加工された手触りの良い木材で持ち手をつけられた不思議な構造をしていた。


 両手で握ると不思議と手に馴染む。


「山の向こうから聞こえていた音はこれだったんだな」


 アカシアが顔を上げると、ミモザは今まで見たことのないほど怒りを見せていた。


「それは()で禁止されていることだ」


 掟。


 そう言われて何となく思い当たる事があった。


 敵が持っていたもので、『未知の物』は村に持ち帰り、村長に渡す事。


 目の前にある人間の死体はアカシアにとっては全てが未知の物だ。


 だから、あたりに転がっている人間の死体はすぐに村長に渡し、アカシアが目にすることはできないのだろう。


 人間がどんな武器を使い、どう戦うのか。


「どうして今まで人間について詳しく教えてくれなかったんだ」


 この戦いでもあらかじめ人間について知っていれば、何か変わっていたかもしれない。


 なんとなく、ミモザは人間が使っていた弓もどきについてあらかじめ知っていた様に思う。


 だからカエデを庇う事ができたのだろう。


「……人間はいつも良くないものを持ち込んで、大切なものを奪っていく。お前と関わりを持たせたくなかった」


 明らかに、ミモザは何かを隠している。


「ミモザが教えてくれないならそれで良い。俺は、自分で知るから」


 ミモザから聴き出すのはもう無理だろう。


 そう悟ったアカシアは、再び人間の持ち物を漁り始めた。


 村の掟はある。


 しかし、破ったものに与えられる罰については知らない。


 村を追放されても構わない。


「……。ソイツは『銃』だよ。あんまり触るんじゃないよ。本当に、どうやって動かすかわからないんだから」


 意外な事に、ミモザが折れるのは早かった。


「それに、私が最後に人間を見たのもかなり昔の事なんだ。だから何があるのか本当にわからないんだ」


「……。こんなもの、どうやって作ってるんだ?」


「そんな事、アタシが知ってるわけないだろ」


 興味は尽きなかったが、ミモザを忠告を聞いて見るだけにする。


 外見を見ているだけでも何に使うのかわからないものが多い。


「……魂石こんせきはないのか?。服、脱がして見るか」


「いや。人間に魂石はないんだ」


「そうか。……じゃあ、人間の記憶は読めないんだな」


 魂石を取り込むとその持ち主の記憶を見る事ができる。


 魂迎えができれば、道具の使い方や、人間について何かわかるはずだった。


 これだけの物が作れるのは、きっと高い技術がある。


 少しでも人間の物が作れる様になれば、村は発展する。


 また人間が襲ってきても、立ち向かえる。


 そうすれば、村を……。


「アカシア。人間に、興味があるのかい?」


 ミモザの声に我に帰る。


 ミモザは、アカシアを見ている。


「人間の事が判れば、村の為になるはずだ」


 呟き、人間の持ち物を見ているアカシアの姿を見て、ミモザは笑った。


「やっぱりアンタはトネリコの子だよ」


 ミモザは、立ち上がった。


「アタシは少し用事ができた。安心しな、すぐに戻ってくるから」



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