カルネヴァの魂石⑥
追加の肉が焼き上がった頃、闇夜から姿を現したのはシルヴァとその同族の2人だった。
シルヴァ達が姿を見せた瞬間、ボサノバ達の間に緊張が走った。
しかし、シルヴァは争う気がない事を表すように笑いながら両手を挙げた。
その姿を見たボサノバは警戒心を解き、再び肉を食べ始めた。
シルヴァ達はボサノバの元へ行き、何事もなかったかのように会話を始めた。
「参りましたよ。まさかこんな方法で逃げられるとは思ってもいませんでした」
「オマエこそ、襲うつもりなんか初めからなかったんだろう。嫌がらせみたいなことしやがって」
「まぁ、そうですね。……アナタ達と戦って勝てるとは思っていませんから」
「どうだかな……。少なくとも俺以外の仲間は殺せたんじゃないか?」
「そうなれたとしてもメリットがありません。我々の仲間も犠牲になりますし、今は身内で争っている場合ではないでしょう」
「そう思うなら仕掛けてくるな」
「アナタがどう切り抜けるのか見てみたかっただけですよ」
シルヴァは悪びれた様子も無く平然と告げた。
いつの間にかその手には焼けた肉が握られている。
シルヴァはそのまま何事もなかったかのように他の魔族達と会話をして、群れに加わった。
同族の2匹も横に座り、会話に混じっている。
「やはり転生者は恐ろしいですね」
「1人やられたのか。魂石は?」
「私が迎えました。彼には身寄りがなかったので」
「そうか。だが、やはり俺はお前のやり方が気に食わない。仲間などとは口にするな」
「構いませんよ。私は私のやり方で仲間を守りますから」
カルネヴァは遠くから、シルヴァ達の会話を聞いていた。
犬人族の中には、明らかな敵意をシルヴァに向ける者もいる。
仲間の仇だと睨みつけ、低いうなり声を鳴らしている。
そんな同族を長としてなだめながら、考えていた。
シルヴァの事は、やはり我々を騙した恨むべき、恐ろしい存在だ。
しかし、シルヴァも我々と同じように仲間を想い、人間と戦い、群れを守ろうとしていただけだ。
「不思議だよねぇ。この光景」
隣に座るムドガルドが目の前の景色を眺めながら呟くように言った。
「油断したらダメよ。ヤツらは少し力を入れるだけで、アタシ達なんてすぐに殺せるんだから」
ムドガルドの隣に座るミーコは、隠す事なく警戒心を魔族達に向けている。
「……ですが、彼らは敵ではなく、ただ生きようとしているだけなのですね」
「カルネヴァは、シルヴァの事が憎くないの?」
「……わかりません。騙されたのは我々が弱く、無知だったせいです。人間と戦うには、シルヴァのような狡猾さも必要なのでしょう」
「仲間が殺されたのに?私はシルヴァの事が大っ嫌い。アイツのやり方は、絶対に許せない」
カルネヴァはミーコの言葉に答える事ができなかった。
ミーコにはきっと、カルネヴァが知らない過去があり、思うところがあるのだろう。
シルヴァを憎む同族に、仲間を殺された事を忘れてシルヴァと共に戦えとは言えない。
しかしいつか、カルネヴァは長として仲間に命じなければならない時が来るかもしれない。
考え込んだカルネヴァを案じて、ムドガルドが口を開いた。
「ボサノバが昔、言っていたよぉ。俺たちは同じ川の水を飲んで生きる1つの群れだ。恨みや憎しみは川に流せ、って」
ムドガルドの声からは、その言葉を大切に思っている気持ちが伝わった。
そう思うほどに優しく、穏やかな声だった。
「甘すぎるんだよ、ボサノバは。いつか裏切られないといいけどね」
ミーコはやはり、心のどこかで彼らを信じきれないのだろう。
その気持ちはカルネヴァにもわかった。
ミーコやカルネヴァは弱い。
犠牲になるなら、弱い自分達からになるのだろう。
しかし、心の片隅では、それでもいいとカルネヴァは思っていた。
それは決して諦めではない。
それでボサノバの役に立てるなら。
自分にはボサノバのような強い力も、シルヴァのような狡猾さもない。
そんな自分たちが役に立てるなら、それでも構わないと思っていた。
それで、この大きな群れに加わる事ができるのなら。
カルネヴァが思いに耽っている間に、肉は無くなってしまったようだった。
ボサノバに声をかけ、魔族達は徐々に闇夜の中に消えていった。
「俺も先にハルモニアに戻るわ。無事に帰れよ」
獅子族はボサノバにそう告げて去っていった。
「では、我々も戻ります。……ゴザルを倒した事は多くの魔族に知られましたから、もう襲われる事はないでしょう。安心してください」
シルヴァも同じくボサノバに声をかけて去った。
去り際に一度、シルヴァは犬人族に視線を向けた。
出会った時と変わらない、作り笑いのような顔だった。
しかし、その変わらない笑みの中には疲れのような物が見えた。
長として仲間を守るために、アナタもこれから苦労する事になりますよ。
カルネヴァには、そんな言葉が聞こえるようだった。




