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生きとし生けるものたち  作者: 鹿角 望月
カルネヴァの魂石
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カルネヴァの魂石⑦

 ハルモニアにはその後、他の魔族との戦いは起きることなく無事辿り着くことができた。


 ボサノバの縄張りはハルモニアから離れた場所にあり、川に沿って歩くと辿り着く。


 歩いていると、多くの魔族にすれ違った。


 改めてたどり着いたハルモニアは、シルヴァと訪れた時とは全く異なっていた。


 大人も子供も種族も関係なかった。


 どの魔族もボサノバに親しげに話しかける者ばかりだった。


 中には、ゴザルを倒した事を聞きつけて興奮気味に近付いてくる者もいた。


 どの魔族を見ても、ボサノバを慕っている事は間違いなかった。


 ボサノバの縄張りは、ハルモニアからかなり距離があった。


「ボサノバはハルモニアの中でも一番大きな縄張りを持っているからねぇ。毎回、移動が大変なんだよぉ」


 カルネヴァの思考を読んだかのようなタイミングでムドガルドは言った。


 しかしそれは、歩き疲れた様子のムドガルドの本心から出た言葉だった。


「なに情けない事言ってんのよ。後、少しなんだから頑張りなさい」


 そんなムドガルドに厳しい言葉を投げかけるミーコもまた、その表情には疲れが見えていた。


 すれ違う魔族が増えてくると、今度は建物が目立つようになった。


 ハルモニアと同じく、様々な作りの家が建っている。


 木の枝を組み合わせて建てた物や、穴の空いた泥山や石を積み上げただけの家もあった。


 それぞれが住んでいる種族に合わせて作られているようだった。


 一際目を引いたのは、木造の家だった。


 どうやって作ったのか、なにを使ったのかがカルネヴァには想像もつかないほど綺麗な家だった。


「すごいですね……。一体、どうやって作ったのですか?」


「これはボクの家なんだぁ。凄いでしょ」


 隣にいたムドガルドが誇らしげに胸を張る。


「アンタァ、帰ったのかい」


 ムドガルドの同族が、ムドガルドの帰還を喜び駆け寄ってきた。


「待たせたねぇ。みんなも元気だったぁ?」


 ムドガルドは駆け寄ってきた妻や子供達と抱き合い、触れ合っていた。


 ボサノバ達は急かす事もなく、ただ黙ってそれを見ていた。


「悪いけどもう少しだけ用事があるから、またねぇ」


 ムドガルドはしばらく触れ合い、家族と別れて再び歩き始めた。


 やがて辿り着いたのは、小さな建物だった。


「ここがボサノバの家だよぉ」


 ムドガルドの物と比べると、少し小さく見た目も地味だった。


「荷物を置いて、寝るための物だからな。これで充分だ」


 家は小さいが、家の外には沢山の丸太が並べられている。


 そこに座っているのは、シルヴァの家に残してきた犬人族だった。


 帰ってきたカルネヴァ達に気づくと、暗かった表情は一変した。


 カルネヴァ達に駆け寄り、数が減っている事に気付いた。


 カルネヴァは、自分たちの身に起こった事を話し、新たな長となった事を告げた。


 話を聞いた犬人族は落ち込み、しかしすぐにカルネヴァがいない間に起こった事を話し始めた。


 シルヴァの家に残された犬人族は、食糧に困る事もなく数日の間は住処に留まっていた。


 しかし、突然戻ってきたシルヴァに連れられて、この場所で座って待つように言われた。


 ここにいれば安全ですから、と。


 お互いの身に起こった事を知り、家族を失った事を知り、涙を流す者も多かった。


 シルヴァへの怒りはますます高まったようだった。


 一族の誇りをかけて、シルヴァと戦おうと言い出す者もいた。


 カルネヴァはそれを宥めた。


 戦うべき相手はシルヴァではない。


 それに今は、仲間の傷を癒すことが優先だ、と。


 そして、改めてボサノバを紹介した。


 彼は私達の命の恩人であり、新たな住処を提供してくれる、と。


 そう言葉にした時、カルネヴァの中に違和感があった。


 まるでシルヴァと同じではないか?


 我々を騙し、利用して死なせたシルヴァと。


 しかし、その事は黙っていた。


 今は同族を不安にさせてはいけない。


 少しでも怪しければ、仲間を引き連れて逃げる判断をする。


 カルネヴァは心に固く誓いながら、ボサノバの話を聞く事に徹した。


 丸太に座ったボサノバは、カルネヴァ達にも丸太に座るように促した。


「見てもらった通り、ここは広い。他の魔族と争わない事を誓うなら、空いている場所に住むといい」


 落ち着いた様子で語るボサノバを、カルネヴァは注意深く見ていた。


 ボサノバはカルネヴァの視線を気にする事なく、この場所での暮らし方を説明した。


 ボサノバの語った掟は簡単なものばかりだった。


 川を決して穢さない事。


 他の魔族と争わない事。


 住処の場所や建て方は、後から紹介するムドガルドの一族に相談する事。


 毎日、必要な食事は配られる事。


 落ち着いたら、ボサノバの縄張りの中で各自ができる事をしてほしい。


 それだけだった。


「……悪いがオレ達はもう寝る。わからない事は縄張りの中に住む誰かに聞けば教えてくれる」


 ボサノバはそう言って立ち上がり、家に向かった。


 ミーコは既に居なくなっていた。


 ムドガルドは立ち上がり、カルネヴァ達に声をかけた。


「新しい住処が決まるまでの借りの家を紹介するから、みんな着いてきてぇ」


 そう言って歩き始めたムドガルドの後を追いながら、カルネヴァ達は新たな生活を迎える覚悟を決めた。

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