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生きとし生けるものたち  作者: 鹿角 望月
カルネヴァの魂石
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カルネヴァの魂石④

 カルネヴァ達が仲間を見送る間、ムドガルドはそばに居て、何かと手伝いをしてくれた。


 今、自分たちが生きて仲間を見送る事が出来たのは全てボサノバ達のお陰だ。


 そして、こんなにも落ち着いて丁寧に仲間を送ることは初めてだった。


 埋葬が終わったカルネヴァが周囲を見渡すと、ボサノバは自らが倒した人間の側に屈んでいた。


 ボサノバの背後からカルネヴァは声をかける。


「仲間の埋葬が終わりました」


 カルネヴァが話しかけた時、ボサノバがポーチに何かを仕舞ったのを見た。


「そうか。ならば早くここを離れよう。ムドガルド、この人間の死体をハルモニアまで持っていってくれ」


 ボサノバは淡々と指示を出し、移動を始めた。


「……もう1人のお仲間は戻られないのですか?」


 歩き出したカルネヴァは、ムドガルドに話しかけた。


 ムドガルドの背中には、殺した人間の死体が詰められた袋が背負われている。


「んー?ミーコの事?だったら大丈夫だよぉ。周囲の警戒をしてくれているから姿が見えないだけだからぁ」


「敵がいるのですか?」


 カルネヴァの問いにムドガルドは答えていいのか悩んでいるようで、少し困った顔を見せた。


 答えられずにいるムドガルドの代わりに、ボサノバが答えた。


「シルヴァが俺達と、この死体を狙っている」


「シルヴァが……食べるのですか?」


「いいや違う。……ムドガルド、説明してやってくれ」


「えー、またボクがするのぉ。まぁ、先は長いからいっかぁ」


 おっとりした様子のムドガルドは、珍しく嫌そうな顔を見せながらも話し始めた。


「君たちはハルモニアには行ったことはあるぅ?」


「はい。シルヴァ殿に案内されて……」


「……その《《殿》》ってのはやめた方がいい。それは、完全な服従を示す相手にだけ使うものだ」


 口を挟んだボサノバを見ると、喋ったのは自分ではないというように横を向いている。


「まぁ、そうだねぇ。ハルモニアではあまり使わない方がいいかなぁ……。まぁ、それより説明に戻るねぇ」


 そう言って、ムドガルドは再び説明に戻った。


 ハルモニアは、多種多様な魔族が住む村だ。


 そこでは争いは禁止され、互いに助け合いながら暮らしている。


 ハルモニアには「住人」と「番犬」と「魔王軍」がいる。


 住人は互いが暮らしやすいようにハルモニアを発展させて調理や建設を行う。


 番犬は村の秩序を守り、魔族同士が争わないように村を守っている。


 魔王軍は人間と戦い、侵攻を食い止める役目を負っている。


 しかし、中にはシルヴァのように周りを騙し、利用しようとする者もいる。


 魔王軍の敵である人間は二種類いる。


 「普通」の人間と「転生者」と呼ばれる強力な人間だ。


 普通の人間は魔法を使えない。


 代わりに道具を使って戦う。


 しかし、転生者は魔族以上に強力な魔法を使う上に道具も使う。


 転生者の数は少ないものの、1人いるだけでも大変な脅威となる。


 今日倒した人間も転生者の1人だ。


 魔族の間では『ゴザル』とあだ名され、長い間戦ってきた。


 ゴザルに殺された魔族は数知れず、少しづつ傷を負わせてようやく今日討ち取った。


 人間を倒した証拠として、人間が身につける認識票(タグ)が用いられる。


 転生者も、もちろん持っている。


 しかし、魔族に顔が知られている転生者の死体の価値はそれ以上に大きい。


 タグを持ち帰るか、転生者を倒したものに与えられる報酬として、ナワバリにできる土地や食糧が与えられる。


 そしてそれ以上に求められているのが「名声」だ。


 名声に、他の魔族は集まる。


 配下の魔族が増えれば群れは大きくなり、人間とも戦いやすくなる。


「だからシルヴァはこのゴザルの死体を持ち帰って、群れを大きくしようとしているんだぁ」


 ムドガルドの説明はわかりやすく、慣れた様子だった。


 きっと何度もボサノバから説明するように言われてきたのだろう。


「……ですが、皆さんもシルヴァも魔王軍なのですよね。争いは禁止されているのではないですか?」


「俺たちの他に魔王軍がいない場所で襲ってくるつもりだろう。シルヴァは魔王軍の中でも手練だ。実力もあるし、何より頭が切れる」


 ボサノバはシルヴァの強さを認めているのだろう。


 ふと、だからこそ、犬人族の死体を持ち帰らずにその場で埋葬するように言ったのだろうか。 


 そんな考えがカルネヴァに浮かんだ。


「でもぉ、本当に危ないところだったよねぇ。急にボサノバが走り出すから焦ったよぉ」


「シルヴァの遠吠えが聞こえたからな。あいつが遠吠えをあげるのは何かあった時だけだ」


 ボサノバの答えにムドガルドはそっかぁ、と答えて黙り込んだ。


 気が付くと辺りは夕暮れに照らされていた。


 ハルモニアはまだ遠い。


「今日はここらで休憩するか」


 犬人族の疲れ具合を見たボサノバが言った。


「我々はまだ、歩けます」


 しかし、カルネヴァを含め犬人族の中には疲れが見え、限界はそう遠くなかった。


「無理はするな。それに、やることも多いからな」


 ボサノバはミーコへの指示のための小さな笛を吹いた。


 しばらくして、ミーコが木陰から姿を現す。


「周囲に魔族はいるか?」


「後ろからシルヴァがずっと着いてきてる。でも、同じ距離を保っているから襲ってくる気はまだ無いと思う」


「そうか。ならばやはり、対策は必要か……。周囲に他の魔族は?」


「いるよ。けど、少し遠すぎるね。アタシが走って呼んでこようか?」


「いや、いい。ミーコは引き続き周囲の警戒を頼む。カルネヴァ達は休んでいてくれ。ムドガルド、俺に考えがある。手伝ってくれ」


 何をするのか、ただ見る事しかできないカルネヴァ達にボサノバは言った。


「飯の時間だ」


 そう言ったボサノバは離れ、準備を始めた。

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