カルネヴァの魂石③
「ちょっと!勝手に離れないでよ!」
ボサノバを追って森から姿を現したのは、猫人族の『ミーコ』だった。
小柄な体に白と黒の綺麗な毛皮を持つボサノバの仲間だ。
怒って現れたミーコは、ボサノバの傷と周辺の惨状を見て顔色を変えた。
「何があったの?敵は?」
「おそらくもう居ない。それよりも彼達を頼む」
そう言いながら、ボサノバはすでに怪我の治療を始めていた。
「彼等って……」
戸惑った様子でミーコは犬人族を見た。
生き残った犬人族も恐れながらも姿を見せていた。
長が殺されて、どうしていいのかわからないのだ。
「どうするの?……まさかコイツらも縄張りに連れて行く気⁉︎」
「シルヴァに連れてこられたのなら住処もないはずだ。それとも他に手があるのか?」
ミーコは観念したように大きくため息を吐き、犬人族に話しかけた。
「アンタ達の隊長は誰?……そもそも生き残っているの?」
ミーコの声は小さい体に似合わず高圧的だった。
その声に威圧された犬人族は戸惑い、誰も声を上げられない。
それにまたイラついたように、ミーコは不機嫌そうな顔を見せる。
「そんなに怒ったらダメだよぉ。彼等の方が今は困っているんだから」
その声と共に姿を現したのが『ムドガルド』だった。
黒い毛皮で覆われた、大きな体を持つ牛人族のボサノバの仲間だ。
頭の両側に生えた2本のツノと大きな体は見る者を威圧する。
しかし、その外見に反して穏やかで優しい性格をしていた。
「遅いよムドガルド!何してたの!」
「一生懸命走ってきたんだけど、2人が速すぎるんだよぉ。それよりみんな、怪我はない?」
ムドガルドは怒るミーコの言葉を受け流し、犬人族の様子を気にかけていた。
他の犬人族は怯えるか、項垂れる者ばかりで答える余裕はなさそうだった。
「……怪我は、ありません。仲間達は、残念でしたが……助けて頂き、ありがとうございました」
カルネヴァは勇気を出してムドガルドに話しかけた。
ムドガルドはカルネヴァの前に移動し、目線を合わせる為に屈んだ。
ムドガルドの威圧的な体が優しく見えた。
「そっか、大変だったねぇ。……ここに君たちを連れてきたのは、シルヴァかな」
「はい。シルヴァ殿に教えられ、我々はここに……」
カルネヴァは答えながら、涙を堪えられなかった。
騙された事も、仲間を失った事も。
全てが悔しかった。
「……君の仲間達の亡骸は、僕達が連れて帰る。だから一度、ボク達の住処においでよ」
「……いいえ、そこまでして頂く訳にはいきません。我々にはもう、返せるものが何も、ありませんから」
「……そうだな。悪いが連れて帰るのは魂石だけにしてくれ。亡骸はここで埋葬する。送り方に決まりはあるか?」
治療を終え、いつの間にかそばに来ていたボサノバが感情を抑えながら冷たく言い放つ。
「……特にありません。魂石は家族に。長の物だけは、新たな長になる者が引き継ぐ事になっていますが……今は新しい長がいません」
「だったらお前が新しい長になるといい。お前だけが、人間や俺に立ち向かう勇気を持っている」
「ですが……」
カルネヴァは迷い、仲間達を見た。
反対する者は無く、カルネヴァと目が合うと力強く頷いた。
「いえ、わかりました。私が責任を持って、引き継ぎます」
カルネヴァの覚悟が決まってからは早かった。
同族の魂石をそれぞれ生き残った血の近い犬人族が迎える。
カルネヴァも、長の魂石を迎えた。
歴代の全ての長は、苦悩を続けていた。
仲間を少しでも安全な場所に住ませたい。
食糧や水を、飢えも渇きもないように、必死に探した。
過去の長の経験から、地形や川の位置を把握し、考えを巡らせた。
それでも、弱い犬人族には生き延びるだけで精一杯だった。
だからシルヴァの事を信じすぎてしまった。
過ちに気付き、人間の恐ろしさを知った時、動くことができなかった。
仲間の魂石を奪う人間を見ても、立ち向かう事ができなかった。
そんな私より、人間の恐ろしさを知ってなお、仲間の魂石を守る為に立ち向かう事のできるカルネヴァを決して死なせてはならない。
その為に、私の命をかけよう。
死んだ長の思いは、決して無駄にしてはならない。
カルネヴァは、固く胸に誓った。




