共に戦う者③
広場での食事を終えたアカシア達は、サレアを含めた3人で村を離れて森の中を進んでいた。
妙に真剣な面持ちのボサノバに、緑熊を狩りに行くと言われたからだ。
先頭を歩くボサノバの後をついて歩く。
サレアはアカシアの少し後ろを歩いていた。ケガの影響はなさそうだった。
村を出てからボサノバは何か考えているようで、口数も少なく表情も固かった。
そのボサノバが口を開いたのは村を出て、ずいぶん歩いてからだった。
他のエルフの気配もなく、アカシアも初めてきた場所だった。
「……なぁ、アカシア。村に残らなくてもいいのか?」
ボサノバの口から放たれた言葉は意外な物だった。
「今更何を言ってるんだよ。……確かに昨日はミモザたちに言えなかったけど、今日は言う。俺はボサノバについて行くよ」
「そうか。……いや、すまない。改めて聞いておきたくてな。ただ、これをしたからといって、考えを変えても俺は止めない」
そう言ってボサノバが差し出したのは、一つの赤い魂石だった。
「コイツは、俺の仲間だった。仲間のことやハルモニアについては、コイツが教えてくれる」
ボサノバは真っ直ぐアカシアを見ていた。
アカシアは黙って魂石を受け取った。
その赤い魂石は陽の光に照らされ、アカシアの手の中で煌めいている。
言葉は必要なかった。
魂迎えとはそういうものだ。
アカシアはその魂石を、自らの魂石に押し当てた。
赤い魂石は、アカシアの魂石と溶け合い混ざった。
そして、その記憶を見た。
小さな弱い魔族だった。
群れの長が魔王軍に入ることを決めたから、それに従う以外の選択肢はなかった。
ただ闇雲に計画もなく、人間に対して群れ全体で襲いかかる。
弱い魔族は人間がどのような戦い方をするのかも知らなかった。
だから返り討ちに会い、群れの大半が死んだ。
この魔族も、死ぬはずだった。
そこをボサノバに助けられた。
初めは、大きく黒いその魔族が恐ろしかった。
しかし同時にその強さに惹かれた。
ハルモニアに戻り、川のそばにあるボサノバの住処に礼を言いに行った。
ボサノバは、この魔族を受け入れ、近くに住むことを許してくれた。
そして、共に戦うことを受け入れてもらえた。
ボサノバは、その弱い魔族の命も大切に扱った。
ハルモニアでの暮らし方を教わった。
弱い魔族がハルモニアで虐げられないように、ボサノバが守ってくれた。
自分たちが思い付かない戦い方をするボサノバや、その仲間たち。
罠や奇襲。偵察を怠らなかった。
正面から戦うことは決してなかった。
人間や、人間が使う道具を丹念に調べ、情報を共有した。
人間を観察し、勝てる手段を考え続けるボサノバに憧れを抱いた。
この弱い魔族たちのように、ボサノバを慕い、共に戦う魔族は多かった。
その一員になれたことが誇りだった。
しかし、やはりどうしても、死者は出た。
どれだけ策を弄しても、人間はそれを上回ってくる。
数は多く、どれだけ殺してもまたやってくる。
使う道具は改良を加えられ、常に変わっていった。
その度に、ボサノバも新しい作戦を考えた。
ボサノバは死者が出るたびに悔やみ、丁寧に弔った。
そして、人間から守られた魂石は同族に渡された。
気がつけば、この魂石の持ち主の魔族は、最後の一体となった。
「私の魂石は、ボサノバの新しい仲間に受け継いでください」
それが、この魔族の遺言だった。
きっとそれが、守られてばかりだった私の使命だ。
どうか私の魂石を受け継ぐ者が、ボサノバのことを守ってくれる事を願って。
「……ありがとう。カルネヴァ」
アカシアは無意識のうちに、カルネヴァへの感謝を口にしていた。
カルネヴァの魂石を通して、アカシアはボサノバについて多くのことを知った。
ハルモニアや人間との戦い方。
カルネヴァが知っていた全てを受け継いだのだ。
「俺は、カルネヴァに恨まれていないだろうか」
「そんなことはない!カルネヴァは最後までボサノバと戦えたことを誇りに思っていた。死んでからも役に立てることを、望んでいた」
「……そうだったか」
ボサノバは、どこか腑に落ちていない様子だった。
魂迎えは、死者の思っていたことを知ることができる。
しかしそれは、迎えた者にしかわからない事だ。
アカシアには、ボサノバを納得させる手段がなかった。
そんなボサノバに声をかけたのはサレアだった。
「恨むわけないよ。ボサノバがどれだけ私たちのことを気にかけてくれているか、わかっているから」
サレアの声は淡々としていた。
しかし、それが本心であることはアカシアにもわかった。
「そういえば、まだお礼、言ってなかったね。ありがとう、ボサノバのおかげで私はまだ、生きている」
アカシアが見つけた時、2人は窮地に立たされていた。
それでも諦めずにサレアを救ったのはボサノバだ。
ボサノバは照れているのか、顔を背けて短く返事を返した。
そんな2人を見てアカシアは決心を固めていた。
生きている間に、言葉にして伝えなければならないことがある。
死んだ後、魂石を通して伝わることは決して変わらない。
変えるなら、変われるのは、生きている今だけだ。
「……2人とも、ごめん。俺、村に戻ってミモザに伝えてくる。村を出て、人間と戦うことを。会うのは最後になるかもしれないから、ちゃんと別れを告げたいんだ」
「そうか。頑張れよ。……だが、すぐに死ぬような目には合わせない。必ず生きて村には戻って来れるようにする」
「ありがとう……でも、村の掟で決まっているんだ。一度村を抜けた者は二度と戻って来れないと」
アカシアは覚悟を決めていた。
「ちょっと待ってくれ。それは聞いてないぞ」
掟について初めて聞くボサノバとサレアは、慌てた様子でアカシアから問いただす。
こうして、3人は全員で村に戻ることを決めた。




