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生きとし生けるものたち  作者: 鹿角 望月
共に戦う者
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29/39

共に戦う者②

 昨日の疲れはアカシアが思っていた以上に溜まっていたのだろうか。


 アカシアが目を覚ました時、日は明けきっていた。


 外に出て、体を伸ばす。


 疲労がまだ体に残っている。


 しかし、休んでもいられない。


 そう思っていると、やけに村の中央が賑わっているようだった。


 微かに聞こえる話し声と、匂いがアカシアに届いた。


 何かを焼く、良い匂いだ。


 昨日の夜、保存食を食べただけのアカシアの体は、その匂いの元に引き寄せられていった。


 村の広場では祭事のような賑わいを見せていた。


 この村の、どこに居たのかと思うほどに大勢のエルフが広場に集まっている。


 その至る場所で珍しく火を焚き、肉や野菜を焼いている。


 仮面を外し、外で食事をするところは初めて見た。


 沼地の整地の作業の時とはまた違う、今までの暮らしの中では考えられない景色だった。


「よう、アカシア。遅かったな」


 隣にいたエルフの青年が幸せそうな顔で肉を頬張りながらアカシアに声をかける。


 顔にはどこかで見た覚えのある彩りの顔料が塗られている。


 誰かわからず戸惑うアカシアに、青年は笑って肩を叩いた。


「俺だよ、クヌギだよ!仮面がないとわからないよなー!」


 名前を言われて初めて、顔に塗ってある顔料が仮面に施された装飾を写した物だとわかった。


 クヌギは笑いながら手に持っていた肉をアカシアに差し出す。


「お前も食えよ。今日の朝、ボサノバが緑熊を狩ってきてくれたんだ。すごかったんだぜ!自分の体より大きい緑熊を2匹!両肩に背負って来たんだ!」


 クヌギは興奮した様子で語る。


 その嬉しそうな表情が、普段は無機質な仮面に隠されていたのだろう。


「広場のどこかにボサノバもいるんじゃないか?お礼言っとけよ。俺は新しい肉を貰ってくる」


 そう言ってクヌギは肉を貰いに近くの焚き火に向かっていった。


 残されたアカシアが辺りを見渡すと、広場の端にボサノバとサレアの姿があった。


「おはよう、アカシア。体調は良くなったのか?」


 開口一番にボサノバにそう問われ、アカシアは戸惑いつつも答えた。


「ああ、昨日の疲れは残っているけど、悪くはない。それよりも、緑熊を狩りに行くなら俺も連れていって欲しかった」


 そうぼやいたアカシアを見て、ボサノバは不思議そうな顔を見せた。


「エルフの少女に起こして貰うように頼んだんだが、体調がすぐれないと言われてな……。まぁ、この調子だと、もう一度狩りに行かないといけないだろうから、その時にな」


「じゃあその時は絶対に誘ってくれ。……それより、こんなに火を着けて大丈夫なのか?他の魔族が来るんじゃないか」


「この村の周辺には魔族はいない。いたとしても、俺の匂いが残っている間は襲ってはこないだろう。……それに、これはローズからも頼まれた事なんだ」


「ローズから?」


 確かに考えてみれば、いくら肉を取って来たとはいえ、村の中でここまでの騒ぎを起こすのはローズの許可がなければできないことだろう。


「ローズにも考えがあるんだろう。……それよりも、アカシアも食べておけ。早くしないとサレアが全部食い尽くしてしまうぞ」


 ボサノバの隣に座るサレアは黙々と肉を食べ続けていた。


 アカシアが作って渡した仮面もサレアの頭の横に、食事の邪魔にならないようにかけられてある。


 足元の皿には大量の骨が積み重ねられ、どれだけの量を食べていたのかを物語っていた。


 アカシアも手に持った肉を見る。


 久しぶりの、焼いたばかりの新鮮な肉だ。


 お腹は空いている。


 それでも……。


「怖いのか。仮面を取る事が」


 ボサノバの、優しくゆっくりとした声がアカシアの耳に届いた。


「周りを見てみろ。誰も俺たちのことなんか気にしていない。……それに、今更見られたとしても、誰もお前を否定しない」


 ボサノバの声は、アカシアの中にあった蟠り(わだかまり)を解きほぐすようだった。


 今なら、大丈夫だと思える。


 アカシアは震える手で仮面を外した。


 風が、顔を撫でる。


 頭が軽く、涼しい。


「良い顔をしているじゃないか」


 ボサノバは笑い、顔を振って周りを見るように促す。


 アカシアが周りを見渡すと、他のエルフ達は変わりなく談笑をし、肉を食べている。


 その中に、自分がいる。


 エルフの中にアカシアは溶け込んでいた。


「アカシア。肉を食ったら、狩りに行こう。そこで俺の戦い方や、他の仲間についても教えてやる。村を出るかは、その後で考えれば良いさ」


 俯いたアカシアの頭を、ボサノバが優しく撫でる。


 アカシアの声は、周りの声に混じり合っていた。


 

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