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生きとし生けるものたち  作者: 鹿角 望月
トネリコの魂石
16/21

トネリコの魂石⑧

 村での、トネリコの立場は大きく変わってしまった。


 トネリコが集めていた人間の物は全て奪われ、家を出ることは禁止された。


「騒ぎが落ち着くまで我慢しておくれ」


 ローズは恐らく、トネリコの為に村人と交渉を続けていた。


 トネリコは見張りを付けられた家の中で、何も知らされないまま、処罰が決まる事を待つしか出来なかった。


 トネリコの知らない所で決められた処罰は、死罪だった。


 問題を拗らせたのは、死んだ村人がトネリコと意見が対立する事が多い、イヌマキだったことだ。


 エルフが人間と戦うことを止めるためにイヌマキを撃ち殺した。


 その疑いを晴らす事が、誰にも出来なかった。


 トネリコを疑う住民は一つの意見を述べた。


 トネリコを死なせて、魂迎えを行い、記憶を見る。


 そうすれば犯人が分かるはずだ、と。


 ローズには、初めからトネリコが犯人だと決めつけていた村人たちを鎮める事が出来なかった。


 その判決は、最後までトネリコには知らされなかった。


 トネリコに出される食事に毒を混ぜ、せめて苦しまないように殺す。


 その予定だった。


 家に閉じ込められたトネリコには、当然、そのことを知る余地もなかった。


 しかし、自分にどのような処罰が下されるか、察していた。


 無論、犯人ではないトネリコの魂石を迎えても、何もわからない。


 無駄死にだ。


 その上、新たな犯人を見つけるため、他の誰かが殺される可能性だってある。


 それならば、自分が犯人と思われたまま村から姿を消すべきだ。


 トネリコは家に閉じ込められた時から、行動を始めていた。


 木で作られた家は魔法で簡単に形を変えることができる。


 行動を始めるのは、村がまだ混乱に包まれ、処罰も決まってない今しかない。


 床の形を盛り上がらせ、座った《《エルフ型》》を作り、マントと仮面を被せる。


 天井を加工し、穴をあけて取っ手を付ける。


 木の頂上まで登ることに時間は掛からなかった。


 問題は木の上に登ってから、村を出るまでの間だろう。


 トネリコの予想通り、村のエルフ達は魂迎えの準備や、森の中にいるかもわからない人間を探している。


 樹上を気にしている様子はなさそうだ。


 樹上の移動には、蔦をロープ代わりにぶら下がり、振り子のように飛び移る。


 音を立てないように樹上を飛び移り、村から離れることに成功した。


 アーデンと別れた川に急いで向かう。


 仮面とマントを纏わずに森を駆けるのは久しぶりだった。


 トネリコの中には、一つの確信があった。


 アーデンはきっと、あの銃声を聞いているはずだ。


 エルフの村から聞こえるはずのない銃声に、何か問題が起こった事を察する。


 そして、私が事情を説明しに来るのを待ってくれている、と。


 トネリコの予想通り、アーデンはまだ、川にいた。


 川の向こうに立って、こちらを見ている。


「アーデン!私も連れて行ってくれ!!」


 静かな森の中に、トネリコの声が響いた。


 川の向こうにいたアーデンが、助走をつけ、飛んだ。


 大きな川を軽々と飛び越え、トネリコのそばに着地する。


「相変わらず、すごい奴だな。キサマは」


「お前は……トネリコなのか?いや、本当にいいんだな?こっちに来るなら、簡単には戻れんぞ」


「構わん。好きにしてくれ」


「落ちないようにしがみ付け。喋ると舌を噛むぞ」


 トネリコを抱き抱え、再びアーデンは川を飛び越える。


 こうしてトネリコはアーデンと共に、森を出るために東へひたすらに歩いた。


 トネリコはアーデンと別れてから村であったことも話した。


 アーデンに、銃を撃った犯人が分かるはずもない。


 しかし、トネリコが村に戻ればどうなるはずだったかを話しておきたかった。


 トネリコの話を聞いたアーデンはただ一言「そうか」と言って、歩き続けた。


 当然、森を出ることはトネリコにとっては初めてのことだ。


 何もわからないトネリコは森の外について、今まで我慢していた事も合わせて色々と聞いた。


 トネリコの中に不安はあった。


 初めて暮らす外での生活。


 置いていくことになった村の皆。


 しかし、それ以上の期待がトネリコの中にあった。


「森の外には何があるんだ?」


 夜。辺りは暗く、動くには危険だということで焚き火を囲んでいた。


「この森を抜けると、広い平原と地図にもあったデカい()がある。この大陸を北から南まで分断する壁だ」


「そんなもの、誰がどうやって作ったんだ?」


「それは誰も知らないらしい。その壁を越えると人間の街があるんだが……」


「何か問題でもあるのか?」


 歯切れの悪いアーデンの様子に、トネリコは焦った様子を見せる。


 そして、意を決したアーデンはトネリコに告げた。


「お前は、人間の街で暮らすことは出来ない」


「なぜだ!耳を隠せば外見に違いはないだろう。人間の暮らしだって憶える!」


「ああ、イヤ、その……、お前は、何と言うか、その……」


 アーデンは言いづらそうに顔を背け、言い淀む。


 トネリコは怒りや不満を隠しきれず、アーデンに詰め寄る。


「美しすぎるんだ」


 意外な言葉に、トネリコは驚き、照れるように顔を背けるアーデンの顔を見つめる。


「ははっ、何を馬鹿げた事を。そんな事で、何の問題が……」


「人間の中には、エルフ族を奴隷として飼っている奴が居ると、聞いた事がある。お前が人間の目に入れば、絶対に狙われる」


 奴隷。


 トネリコには初めて聞く、その言葉の意味までは正確にはわからない。


 しかし、それが良くないもので、アーデンはそれを心から嫌悪している事。


 それは、アーデンの表情を見れば明らかだった。


「そうか……なら、私はどうすれば良い?仮面を着けて暮らすか?」


「それだけでは難しいだろう。街で暮らすには目立ちすぎるし、確実にどこかで素顔は見られる……壁の向こうにも、森はあるはずだ。そこで2人で暮らそう」


 そして2人は旅に出た。


 長い旅になった。


 それでも2人は助け合い、森を歩いた。


 森を出ると、広い平原が広がっていた。


 そして、その先には壁があった。


 長く、視界の果てまで続く、赤く高い壁がどこまでも伸びていた。


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