第99話「全員が集まる日」
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定休日の午後。
ミオが「近くのカフェで集まりませんか」とグループトークに書いた。全員が「行きます」と返した。
カフェの中央あたりのテーブルに六人が並んだ。いつものバックヤードと違って、外の光が入っていた。コーヒーとケーキを頼んで、しばらく何も言わなかった。
「なんか、久しぶりにちゃんと外で集まった気がします」とナナが言った。
「横浜以来ですね」とカイが言った。
「横浜は集まった感じじゃなかったけど」
「そうでしたね」
「もし封印したら」とテルが言った。「何が変わると思う?」
「まず遅刻が本当に遅刻になります」とナナが言った。「今は止めてるから余裕で着くけど——封印したら本当にギリギリで走るしかない」
「今も走ってるじゃないですか」とソウが言った。
「でも止めてる分のバッファがある。なくなったら——もっとちゃんと早起きするしかない」
「早起きすればいいですよ」
「難しいんですよ、早起きって」
「ナナさんにとってどのくらい難しいですか」
「もう十分早く起きてます。問題は布団から出ることです」
「それは封印と関係ないですね」
「うん、関係ないですね」
「カイさんはどうですか」とソウが聞いた。
「体重が正確に出るようになります」とカイが言った。
「それは封印のメリットですか」
「……複雑です」
「なぜですか」
「今は体を重く感じさせて心理的に満足していた部分がある。正確な数値が出ると向き合わなきゃいけなくなる」
「前向きに考えると——正確な数値が出た上で管理できるようになりますよ」
「そうですね。正しい努力ができるようになる」
「えらいですね」
「それがえらいかどうかは分かりませんが」とカイが少し笑った。「まあ、その方がいいと思います」
「レイさんは」とナナが聞いた。
「壁がすり抜けられなくなります」とレイが言った。
「それ以外は」
「……人に触れても、すり抜けなくなります」
「それは」とナナが少し間を置いた。「いいことですね」
「そうですね」
「怖くないですか」
「怖いです。でも——ソウさんの手は通り抜けなかったので」
「そうだったんですか」とカイが言った。
「ラーメン屋で、テルさんが食べている横で」
「俺が食べてたのは覚えてた」とテルが言った。
「覚えてたんですか」とナナが言った。
「食べ物の記憶は鮮明だ」
「テルさんはどうですか」とソウが聞いた。
「じゃんけんで一回は負けたいと言ってた」
「それは叶いますね」
「そうだな。自動的に五割くらい負けるようになる」
「それが楽しみですか」
「……楽しみかどうか分からないけど、一回くらいは負けてみたい」
「テルさんらしいですね」
「あと——まあ。なるようになる、の意味がまた変わりそうだな」
「どう変わると思いますか」
「今は確率がずれてるから、なるようになるの確率が高い。でも封印したら——本当に何がなるか分からなくなる。その『なるようになる』の方が、多分好きだ」
「ミオさんは」とソウが聞いた。
「崩れた卵焼きを、みんなに食べさせたいです」とミオが言った。「それだけです」
「それだけですか」
「それだけが今の目標です」
「それは必ず叶えてください」
「練習しています」
「何回くらい練習しましたか」
「十四回です。まだ全部崩れています」
「方向性は一致してますね」
「そろそろ、決めなきゃいけないな」とテルが言った。
全員が少し静かになった。
「じゃんけんで決めるか」
「ダメだろ」とナナが言った。
「ダメですよ」とカイが言った。
「仕様ではない」とレイが言った。
「そういう問題じゃないですよ」とソウが言った。
「……俺もダメだと思う」とテルが言った。「言ってみただけだ」
全員が少し笑った。
カフェの光が、テーブルの上に差し込んでいた。
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