第98話「ソウに決める権利はない」
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その日の夜、ソウはグループトークにテツジンの話を書いた。
長文になった。理論のことと、前例がないこととと、「NPCが信じ続ければいい」ということを、できるだけ丁寧に書いた。
送信したのは夜の九時すぎだった。
返信はすぐに来た。
テル〈なんか急に話がでかくなったな〉
ナナ〈ソウが信じ続ければいいってことですよね?〉
カイ〈条件はそれだけですか?〉
ミオ〈テツジンさんに追加で確認したいことがあります〉
レイ〈翌朝、会って話しましょう〉
翌朝、昼前に全員がバックヤードに集まった。
「テツジンさんの話の確認をしたいです」とレイが言った。
「どうぞ」とソウが答えた。
「ソウさんがこの世界を信じ続ければ、私たちが封印しなくても世界が安定する可能性があると——そういう理解でいいですか」
「仮説です。前例はないですが、そういう理解で合っています」
「分かりました。では——」
「ちょっと待って」とソウが言った。
全員がソウを見た。
「俺が信じ続ける、というのは——俺がやればいいことです。みんなが封印を急ぐ必要はないんじゃないですか」
全員が少し黙った。
「ソウさんが一人でやろうとしてる感じがします」とナナが言った。
「俺ができることは俺がやる、ということです」
「でもテツジンさんは——」とカイが言って、手元の画面を見た。「『NPCが信じるだけでは足りない。アップデートたちが自分の意志で選ぶことが必要』と書いてありますよ、ソウさんのテキストに」
「……確かに書いてあります」
「つまりソウさんが一人でやっても足りないということでは」
「そうですね……」
「なのにソウさんが『俺がやればいい』と言うのは、矛盾してますよ」
「……そうですね」
「ソウさん」とレイが言った。
「はい」
「一つ確認してもいいですか」
「どうぞ」
「ソウさんは、私たちに封印させたくないですか」
ソウが少し間を置いた。
「封印させたくない、というのは——封印が嫌なものだと思っているわけじゃないですが——できれば、能力を持ったまま、みんながここにいられたらいいと思います」
「それは、私たちのためですか」
「……そうです」
「そうですか」
「ソウさん」とレイが続けた。
「はい」
「ありがとうございます。でも——」
レイが全員を見た。
テルを見て、ナナを見て、カイを見て、ミオを見た。
「ソウが選ぶんじゃない」
声が静かだった。
「私たちが選ぶ」
全員が、少し静かになった。
ソウはレイを見た。
レイが「私たちが」と言ったことを、ソウは聞いた。「私」という一人称を、全員の前で、はっきりと使った。いつもの「仕様なので」でも、「アップデートの能力が」でもなく——「私たちが」。
テルが何かを言いかけて、口を閉じた。
ナナが少し下を向いた。
ミオが目を閉じた。
誰も何も言わなかった。
昼のテレビが速報を出した。
〈沖縄本島で今朝から広い範囲に渡って気温が50年ぶりの低水準に落ち込み、一部地域では農作物への被害が報告されている〉
ソウは後でメモすることにした。今は、それどころではなかった。
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