第96話「安定性:8%」
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テツジンが来たのは、その週の水曜日だった。
いつも通り午後二時台に来て——でも今日は真っ直ぐソウのいるカウンターに来た。
「8%になりました」
それだけ言った。
「8%」とソウが繰り返した。
「残り日数は39日です。来週には30日台に入るかもしれません」
「9.2%から下がりましたね」
「急いでいます」
ソウはレジの横でメモを取った。「39日。8%」。テツジンが少し身を乗り出した。
「一つ確認させてください」
「どうぞ」
「封印を、決めましたか。全員が」
「……まだです」
「なぜですか」
「各自が考えています。強制することじゃないので」
「残り39日は、考える時間として十分ではありません」
「分かっています」
テツジンが少し間を置いた。
「一週間後に、もう一度来ます。そのときに方向性だけでも教えてほしい」
「全員に伝えます」
「お願いします」とテツジンが言って、立ち上がった。
「一つ聞いてもいいですか」とソウが言った。
「どうぞ」
「封印か、消えるか——その二択以外に、選択肢はないですか」
テツジンが振り返った。
「能力をそのままで、世界が安定する方法という意味ですか」
「そうです」
テツジンが少し黙った。
帽子のつばを少し触った。
「封印がいやなのか——それとも、みんなに能力を使い続けさせてやりたいのか」
「両方です」とソウが正直に言った。
「……正直だな」
「正直に聞いた方が答えが出やすいと思って」
「それはそうかもしれない」
テツジンが窓の外を見た。外は晴れていた。
「昼のニュースを見ましたか」
「見ていないです。何かありましたか」
〈気象庁は関東一円でオーロラに似た発光現象を確認したと発表。低緯度では極めて珍しい現象で、大規模な磁場変動が原因と見られる〉
テツジンがスマホを差し出した。
「日本でオーロラが見える。それだけ磁場が乱れている」とテツジンが言った。
「……分かりました」
「39日、急いでほしい」
「でも——能力をそのままで安定する方法の話を、まだしていないですよね」とソウが言った。
テツジンが少し間を置いた。
「……あるかもしれない」
「あるんですか」
「ただし——」とテツジンが言って、帽子を深くかぶった。
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