第90話「死者はいなかった」
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続報は、午後に入った。
〈横浜市の建物消失について、地元住民の証言を整理した結果、消失した建物はいずれも数年前から空き家・未使用状態だったとみられることが分かった。現時点で行方不明者や死傷者の報告はない〉
「空き家だった」とナナが言った。
「……よかった」とミオが言った。声が小さかった。
「よかったですね」とソウが言った。
「でも——次は違うかもしれない」とミオが続けた。「世界の安定性がさらに下がれば、より大きな範囲が消えます。その中に人がいないとは限らない」
「そうですね」
「私が複製を止めていれば——百年前に止めていれば、こういうことにはならなかった」
「ミオさん」とソウが言った。
「はい」
「止めたんですよね。複製を。もう作っていない」
「止めました。でも過去の副作用は残ります。私が過去に残してきたものが、これから消えていく。私が何かするたびに、その分の傷が残る」
「今は残っていない傷ですよね」
「でも——」ミオが少し間を置いた。「もう、複製は使えません。技術的に使えないではなく——使えないと思っています」
「封印、ということですか」
「封印の宣言をしたわけじゃないです。ただ——使えない。自分の中で、何かが決まった気がします」
「それって封印と同じですか」とナナが聞いた。
「分かりません」とミオが言った。「テツジンさんに聞けば分かるかもしれません」
「聞いてみます」とソウが言った。
「ありがとうございます。でも——封印かどうかに関係なく、もう使いません」
ミオがそう言い切った。声は静かだったが、迷いがなかった。
「私がやるべきことが一つあります」とミオが続けた。
「何ですか」
「横浜に行って、謝ってきます」
「謝る、というのは」
「空き地になった場所に。誰もいないかもしれないけれど——行かないといけない気がします」
「一人で行きますか」
「一人で行きます。明日の定休日に」
「……分かりました」とソウが言った。「何かあったら連絡してください」
「はい」
翌朝、定休日。
昼過ぎに、ソウのスマホにグループトークへの書き込みが入った。
テルだった。
〈ミオさん、LINEが既読にならない〉
ソウが「ミオさん」と直接呼びかけようとして——ミオのアイコンにメッセージを送った。
届いた。でも、既読にならなかった。
電話をかけた。
呼び出し音が続いた。
出なかった。
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