第89話「新しい異変」
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「ミオさん」とソウが言った。
「……」
「ミオさん、顔色が」
「はい」とミオが言った。声が普段と違った。「分かってました、こういうことが起きるかもしれないのは」
「どういうことですか」
「複製したものが消えるとき——元の空間も一緒に消えることがある」
全員が静かになった。
「元の空間、というのは」とレイが聞いた。
「複製は、元の物体の情報を読んで再現します。長い時間、繰り返し同じ場所で複製すると——元の物体だけでなく、そこにあった空間の情報も読み込まれることがある。その複製が消えるとき、空間の情報も一緒に消えます」
「消えた建物は——」とソウが言った。
「昔、私が複製をしていた場所に近い区域だと思います」
「昔というのは」
「百年ほど前」
ナナが「百年ほど前……」と繰り返した。
「私は長い間、同じ場所で同じことをし続けることがある。一度始めると、なかなかやめられなかった」
「でも、こうなる可能性を知っていたんですか」とカイが聞いた。
「可能性として、知っていました。何度も経験していたから」
「何度もあったんですか、建物が消えることが」
「過去に——三度。でも全て空き家だったか、人のいない時間でした。今回も——」
ミオが言いかけた。
「今回も、人はいなかったと信じたいですが——確認していません」
テレビが続報を出した。
〈横浜市の建物消失について、市当局は現地を封鎖し調査を開始した。消失した場所は複数棟の建物があったとされるが、登記や写真などの物的記録との照合が難航している。周辺住民への聞き込みでは「昨日まであった」「いつからないか覚えていない」と意見が分かれている〉
「記録が混乱してる」とテルが言った。「消えた事実だけじゃなくて、あったかどうかの記録まで」
「世界の安定性が下がると、記録の整合性も崩れていきます」とミオが言った。「事実が上書きされていく」
「……そういうことまで起きるんですか」とナナが言った。
「はい。最終的には——人の記憶まで」
全員が沈黙した。
ソウは何かを言おうとして——一番大事なことを先に確認することにした。
「ミオさん」
「はい」
「それって——」
声が少し、出にくかった。
「消えた建物の中に、人はいたんですか」
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