第86話「店長に話す」
---
「話します」とソウが言った。
「全部か」と店長が聞いた。
「全部です」
「……そうか。聞く」
ソウが話し始めた。
最初に、カイの重力操作のことを話した。それから、ナナの時間停止。テルの確率操作。レイの壁すり抜け。ミオの複製。
それぞれが、どんな副作用を持っているか。副作用が積み重なって、今どんなことが起きているか。世界の安定性が下がっていること。テツジンのこと。封印のこと。
全部話すのに、三十分かかった。
田所店長は、一度も口を挟まなかった。腕を組んで、全部聞いていた。
ソウが話し終えた後、店長がしばらく黙っていた。
「……じゃあ」と店長が言った。「ナナが遅刻ギリギリなのに汗かいてる日は、時間を止めて走ってきてたのか」
「そうです」とナナが答えた。
「止めてたのにギリギリなのはなんでだ」
「止めてる間も走るのが遅いので」
「……まあ、そうか」
少し間があった。
「レイが棚の裏から出てきたのは」
「壁をすり抜けていました」とレイが答えた。
「そのたびに服が落ちてたんだが」
「脱衣が必要な仕様なので」
「……なるほど」
「ミオが毎日弁当を作ってきてたのは」
「複製していました」とミオが答えた。「本当に申し訳ありません」
「謝ることじゃない」と店長が言った。「ありがたかった」
「……ありがとうございます」
「ただ——24時間で消えるんだな」
「はい」
「俺が弁当を食べ切れなくて冷蔵庫に入れてた日、翌朝なくなってたのはそういうことか」
「……そうです」
店長が「なるほど」とまた言った。
「テルの確率操作、というのは」と店長が続けた。「じゃあじゃんけんで負けたことないのか」
「ないです」とテルが答えた。
「お前、うちのバイトでじゃんけんした回は全部勝ったな」
「全部勝ちました」
「…昼の食べ物決めるとき、俺が毎回食べたいものと違うものになってたのはそのせいか」
「すみません」
「まあ」と店長が言って、少し笑った。「まあ、よし。カイの重力は——箱が浮いてた以外は何かしてたか」
「棚の整理を少し楽にしていました」とカイが言った。「重い在庫を降ろすときに」
「それはありがたかった」
「……よかったです」
昼のテレビが速報を出した。
〈東北から関東の広い範囲で、今朝から複数の川や水路が同時に干上がり始めている。気象条件との因果関係は不明で、専門家も「自然現象では説明が難しい」とコメント〉
川が干上がる。
ソウはメモを取ろうとして——店長が「スマホ、後でいいぞ」と言ったので、やめた。
「それで」と店長が言って、全員を見た。「お前たちは今、どうするつもりなんだ」
全員が少し黙った。
「封印する方向で考えています」とソウが答えた。「ただ、全員が揃って決める必要があるので、まだ時間がかかるかもしれません」
「急いで決めなくていいのか」
「期限があります。残り——」ソウは数えた。「五十七日です」
「五十七日」
「その前に全員が決める必要があります」
店長が頷いた。
「それで、お前たちはどうするつもりなんだ」と、また同じことを聞いた。
「……今のが答えです」とソウが言った。
「それ以外に、どうしたいか、を聞いた」
---




