第83話「テルの24時間」
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「明日、休みをもらえますか」とテルが閉店後に言った。
「言えば取れますよ」とソウが答えた。「田所店長に連絡してみます」
「一日だけ」
「何をするんですか」
「考える日にする」とテルが言った。「いろいろ、一回やってから——それから考える」
「やっていいですよ」とソウが言った。
「止めないのか」
「テルさんが一日使うより、テルさんが考えるために一日が必要な方が大事だと思うので」
テルがしばらく黙って、「分かった」と言った。
翌日、テルは来なかった。
開店してから三時間が経って、テルが来ないことが当たり前になってきた頃、ナナが「なんかテルさんいないと静かだな」と言った。
「そうですか」とソウが答えた。
「テルさんって、いる存在感がすごいんだよ。いなくなると気づく」
「いますよ、普段は」
「今日いないから気づいた」
「そうですね」
レイが「テルさんは今日、何をしているんでしょうか」と言った。
「考える日にするって言ってました」
「考えながら確率を使っているんだと思います」とレイが言った。
「なぜそう思うんですか」
「テルさんはいつも動きながら考える人だから」
「観察してますね」
「観測が仕様なので」
昼のテレビが速報を出した。
〈大阪・神戸で、昨夜から今朝にかけて電波時計が一斉に誤った時刻を表示し、一部では午前3時に止まり続けるものも出た。電波障害との関連は不明〉
電波時計が午前3時で止まる。
ソウは「大阪・神戸、電波時計停止——時間系統への影響?」とメモに書いた。ナナの時間停止の副作用が、こんなところまで来ていた。
夕方、閉店後。
ソウが自分の部屋に帰ってから少し経ったとき、スマホが鳴った。
テルからだった。
〈今日いっぱい使った〉
ソウが返した。〈どんなことをしましたか〉
〈自販機でジュース当てた。七回連続。コンビニで500円以下の買い物して全部おつりが当たりの金額だった。川沿い歩いたら信号が全部青になった。公園でじゃんけんしてた子供に声かけて勝負した。百回やって百回勝った〉
〈子供が困りませんでしたか〉
〈最初は喜んでたが途中から泣きそうになった。ごめん、と思って百一回目は負けた〉
〈百一回目は負けられたんですか〉
〈頑張れば負けられる。ただすごく疲れる〉
〈そうなんですね〉
〈一日使い倒して何が分かったかというと〉
〈何が分かりましたか〉
〈楽しくなかった〉
〈楽しくなかったんですか〉とソウが返すと、しばらく間があった。
〈楽しかったけど——楽しくなかった。分かるか〉
〈少し分かる気がします〉
〈前は楽しかった。信号青にしたら嬉しかった、自販機当たったら嬉しかった。でも今日は——何かが違った〉
〈何が違いましたか〉
〈みんながいないから〉
ソウは少し考えて、〈みんなが必要だったんですね〉と返した。
〈必要というか——一人でやる意味がない感じがした〉
また間があった。
〈ソウ〉
〈はい〉
〈やっぱやめとく〉
ソウは画面を見た。
〈封印を、今やるのをやめる、ということですか〉
〈今日じゃない。まだやめとく〉
〈分かりました〉
〈また連絡する〉
既読がついて、それ以上は来なかった。
ソウはスマホを置いた。夜の部屋で、しばらくそのまま座っていた。
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