第79話「テツジンへの質問」
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テツジンは、必ず同じ時間に来た。
ソウがそれに気づいたのは、先週のことだった。水曜日の午後二時から三時の間。ふらっと来て、二十分ほど何かを見て、また帰っていく。買い物はしない。ただ来る。
今日は水曜日だった。
ソウは午後一時五十分から、入り口が見える位置に立っていた。
「なんかそわそわしてるな」とテルが言った。
「していないです」
「お前がそわそわするのは珍しいから分かる」
「誰かを待ってます」
「誰を」
「テツジンさん」
「……あの老人か」とテルが言った。「また来るのか」
「来ると思ってます」
「根拠は」
「カンです」
テルが「お前にカンがあるとは思ってなかった」と言った。ソウも「俺にカンがあるとは思っていませんでした」と返した。
午後二時十三分、テツジンが来た。
ソウは「少しお時間をもらえますか」と声をかけた。
テツジンが立ち止まった。帽子のつばを少し上げて、ソウを見た。
「待っていたんですか」
「はい」
「それは珍しい」
「聞きたいことがあります」
テツジンが「どうぞ」と言って、壁際の端末コーナーに移動した。展示端末を触る振りをしながら、ソウと向き合った。
「消えない方法はありますか」とソウが聞いた。
テツジンが一瞬だけ、動きを止めた。
「ミオさんから聞いたんですね」
「はい。消えることで世界が安定する、と聞きました。でも——それ以外の方法を知りたいです」
「知っていたら教えるべきか、迷っていました」
「知っているんですか」
テツジンが少し間を置いた。
いつもは答えが決まっているような喋り方をする人だった。質問されたら即座に返す。何かを知っている、あるいは知らない、どちらかをはっきり言う。
でも今日は——初めて、困った顔をしていた。
本当に困っているような、どうすればいいか分からないような顔だった。
「……テツジンさん」
「珍しいことを言われましたね、私も」とテツジンが言った。「前回、この世界のサイクルが終わるとき——アップデートたちに、この質問をされたことがありませんでした」
「一度もですか」
「一度も。みんな、消えることを受け入れたか、あるいは消えることを知らなかった」
「俺は受け入れたくないです」
「あなたは受け入れないんですね」
「受け入れません」
テツジンがしばらく黙った。
展示端末をまた触った。何かを入力するような手の動きをしたが、何も入力していなかった。ただ考えていた。
ソウは急かさなかった。
店内に客が入ってきた。ナナが笑顔で「いらっしゃいませ」と言って対応した。
〈本日、新潟・長野でも気温と気圧の連動変動が確認されました。関東・東海を経て日本海側にも広がっています。……〉
テレビが流れた。ソウはチラリと確認して、メモを取った。「新潟・長野まで拡大」。
「……一つ」とテツジンが言った。
ソウが向き直った。
「試したことがない方法が、あります」
「何ですか」
「ただし——」とテツジンが続けた。「前例がない。成功するかどうか、私にも分かりません。観測者として、数値は見られます。でも保証はできない」
「それでいいです」
「もう一つ、条件があります」
「何ですか」
「その方法は——あなたが、やるかどうかを決めることではない」
ソウは少し間を置いた。「アップデートたちが、ですか」
「はい。私が何かを提案するのではなく——彼女たちと彼が、自分の意志で選ぶことが、条件です」
「分かりました」
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