第77話「帰り道」
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帰りの電車は静かだった。
行きは賑やかだったのに、六人とも、ほとんど何も言わなかった。
ソウは窓の外を見ていた。景色が流れていくのを、ただ見ていた。
ミオは目を閉じていた。
レイは窓と反対側の壁を見ていた。
カイはスマホを手に持ったまま、画面を見ていなかった。
ナナが一度、「……さっきのって」と言いかけて、やめた。
テルが「うん」とだけ答えた。
それ以上は誰も続けなかった。
駅について、一度だけ解散するかどうか話した。
ミオが「近くのお店でお茶しませんか。少し休んでから」と言った。
全員が黙って頷いた。
近くのファミレスに入った。六人並ぶと店員さんが少し困ったような顔をしたが、四人がけのテーブル二つを繋げてくれた。
飲み物が来るまで、誰も何も言わなかった。
「消えるって」とナナが言った。「どういう意味ですか」
「存在が、なくなる、ということです」とミオが静かに言った。
「俺たちが?」とテルが聞いた。
「私も含めて。アップデートたち全員が、この世界から消えることで——世界の安定性が回復します」
「確実に?」
「今までの前例が全部そうです。世界が崩れる前に、アップデートたちが消えた。そのたびに、世界はリセットされて、また始まっていた」
「リセットされる、というのは」とレイが言った。「今の私たちの記憶も、消えるということですか」
「はい」
「……」
レイが黙った。
コーヒーが来た。
ナナがストローでジュースをかき回した。
「消えたくない」と、ナナが小さく言った。
誰も否定しなかった。
「消えたくない、って言ったら駄目ですか」
「駄目じゃないですよ」とソウが言った。
「でも消えないといけないんだったら」
「まだ、その話の全部を聞いていないです」
「全部じゃないんですか」
「全部じゃないと思います。ミオさんが『頼みたいことがある』と言ったのは、俺に向けての話でした。消えることが決まりだったら、頼みごとは必要ないはずです」
ナナが少し黙って、「……そっか」と言った。
「うん、と言いたいところですが」とミオが言った。「確証はないです。すみません」
「謝らなくていいです」とソウが言った。「続きは今日じゃなくていいですか」
「今日じゃなくていいです」
「ありがとうございます」
その後、ファミレスで一時間ほど過ごした。
話は戻らなかった。
カイが「さっきのニュース、やっぱり気になる」と言って、スマホで調べ始めた。「関東でも気温と気圧の連動が始まったそうです。仙台から南下してきてる」。ソウは「分かりました」と言って、後でメモしようと思った。
帰る前に、何となく全員で店に寄ることになった。定休日の夜なので、店には誰もいなかった。裏口から入ってロッカーに荷物を置いて、休憩室に集まった。
田所店長が残業していた。
「お、全員いる。どこか行ってたのか」と店長が言った。
「海辺まで行ってました」とソウが答えた。
「レジャー?」
「少し、話をしに」
「そうか」と店長は言って、全員の顔を見た。「……なんか顔色悪いな。全員」
「そうですか」
「晴れてたのに日焼けもしてないし。何かあったか」
「いろいろ話しました」
「そうか」と店長はもう一度言って、「まあ、飲み物でも飲んでから帰れ」と言って、また自分の仕事に戻った。
それが刺さった、とソウは後で思った。
世界が崩れるかもしれない話を聞いた日に、「顔色悪い、飲み物飲んでから帰れ」と言ってくれる人がいること。
テルがロッカーの横に立って、独り言みたいに「なるようになる」と呟いた。
いつもの言葉だった。
でも今日だけは——笑えなかった。
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