第76話「頼みたいこと」
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波が引いた。
音が戻ってきた。
「何と言いましたか」とソウが聞いた。
「……続けていいですか」とミオが言った。
「はい」
「あなたに頼みたいことがある、と言いました」
「分かりました。聞きます」
ミオが少し時間をかけた。
その間、誰も動かなかった。テルがポケットに手を入れた。ナナが腕を組んだ。カイが海の方を向いた。レイが一歩、ミオの方に近づいた。
「世界を安定させる方法が、あります」とミオが言った。
全員が聞いた。
「その方法は——今まで何度も試みられてきました。でも、成功したことがない」
「何度も」とレイが言った。
「はい。私が覚えているだけで、六回あります」
「六回」
「世界が崩れるたびに——また同じことが起きます。アップデートが生まれて、能力が使われて、世界の安定性が下がっていく。私だけが、毎回それを覚えています」
ソウは黙って聞いていた。
「それでも今回が違うのは——」とミオが続けた。「ソウさんがいるから、だと思っています」
「俺が何かできますか」
「できると思っています。でも——先に、方法を話さないといけない」
ミオが海を見た。
遠くに、カモメが一羽いた。波に乗って浮いていた。飛ばずにただ、浮いていた。
「世界を安定させる方法は——」とミオが言った。
少し、間が空いた。
長い間だった。
ミオが言葉を選んでいた。何を言えばいいか分かっているのに、どう言うかを選んでいるような間だった。
「ミオさん」とソウが言った。
「はい」
「言って」
一言だった。短かった。
ミオがソウを見た。
ソウの顔を、少し眺めた。
それから——
「私たちが、消えること」
誰も、何も言わなかった。
カモメが飛んだ。波が来た。
風が吹いた。
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