表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アップデートしてください。〜うちのバイト先、なんか変な人しかいないんですけど〜  作者: ハル
糸が繋がる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

75/94

第75話「NPCと調停者」

---


 ミオが、ソウの方を向いた。


 全員がソウを見た。


「ソウさんは」とミオが言った。「アップデートではありません」


 誰も何も言わなかった。


「この世界が自然発生させた、通常の住民です。問いとして生まれたのではなく——ただ、ここに生まれた人間です」


「じゃあ俺は」とソウが言った。


「人です。普通の、この世界の人です」



 



 しばらく、本当に誰も何も言わなかった。


 波の音だけがあった。


「……普通の人なんだ」とナナが言った。


「そうです」


「じゃあソウって、ただの一般人ということですか」


「一般人という言葉が正しいかどうかは分かりませんが」


「えっ」とテルが言った。「待って。俺たちのバイト先の一般人が、こんなとこまで来て世界の真実を聞いてんの?」


「そうなりますね」


 テルが「……なんか、それはそれでおかしくないか」と言った。


「どういう意味ですか」


「普通の人間が、俺たちと同じ職場で一緒に働いて、世界が終わるかもしれない話に混ざってるのが、普通じゃないだろ」


「確かに」とナナが言った。


「……まあ、なるようになる」



 



「ソウさん」とミオが言った。


「はい」


「びっくりしましたか」


「してます」とソウが正直に言った。「でも——なんとなく、そうかなと思っていた部分もあります」


「そうですか」


「俺に何もないのは分かってた。確率も、時間も、重力も、壁も、複製も——何もない。ただ、見ている、というだけで。それが変だとは思ってなかったけど」


「変ではないです」とミオが言った。「あなたがここにいる理由があります」


「理由」


「アップデートたちは、世界の問いです。問いには——答えようとする存在が必要です」


 ソウは少し間を置いた。「俺が、答える側ですか」


「正確には——」とミオが言いかけた。


 そのとき、カイのスマホが鳴った。


「すみません」とカイが言って、画面を見た。「ニュース通知です。——北海道・東北の気温気圧変動が、関東にも及び始めた、と」


 全員が少し黙った。


「後で確認します」とソウが言った。カイがスマホをしまった。


「続けてください」とソウがミオに言った。



 



「あなたが答える側、というのは正確じゃないかもしれません」とミオが言った。「調停者、という方が近い」


「調停者」


「アップデートたちは、この世界のバランスを崩しています。能力を使うたびに、世界の安定性が下がっていく。でも——あなたがここにいることで、少しだけ、バランスが保たれていた気がします」


「保たれていた、というのは」


「観測されていたから」とミオが言った。「あなたがみんなのことを見ていたから。意識が向いていたから——世界が、もう少し持ちこたえていた」


「俺が見ているだけで、世界が持ちこたえるんですか」


「根拠は私の感覚です。証明はできません。でも千年以上、この世界を見てきた私には——ソウさんがここに来た頃から、何かが少し変わった気がしました」



 



「まじか」とテルが言った。


「まじです」とミオが答えた。


「ソウがバイトに来たのが、世界にとって意味があったのか」


「そう思っています」


「ソウ」とテルが言った。


「なんですか」


「お前、採用されてよかったな」


「今それを言いますか」


「なんか、えらいなって思って」


「テルさんが言うと照れますね」


「照れんな。世界の調停者だぞ」


「それはテルさんが言うことじゃないですよ」



 



 レイがずっと、ソウのことを見ていた。


 ソウはそれに気づいていたが、何も言わなかった。


「レイさん」とミオが言った。


「はい」


「ソウさんのことを、どう思いますか」


 レイが少し間を置いた。


「……私たちが問いなら、ソウさんは——答えに近い存在なのかもしれない」


「詩的ですね」


「詩のつもりはないです。そう見えるだけです」


 ソウはレイと目が合った。レイは目を逸らさなかった。



 



「ミオさん」とソウが言った。


「はい」


「俺に何か、してほしいことがあるんですか」


 ミオがソウを見た。少し微笑んで——そして、口を開いた。


「だからこそ——あなたに頼みたいことがあります」


 大きな波が来た。


 音が全部をかき消した。


---

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ