第71話「次の休日」
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ソウは声をかけなかった。
ミオが公園で空に向かって「ごめんなさい」と繰り返しているのを見て、そのまま引き返した。声をかけるべき場面だったのか、そうじゃなかったのか、今もって分からない。ただ、自分が踏み込む場所じゃないと思った。
閉店後、テルに「どこ行ってたんだ」と聞かれた。
「少し外に出てました」
「ミオさんのこと追いかけてたか?」
「近くを通っただけです」
「近くを通って何もしなかったのか」
「何もしませんでした」
テルが「お前って、ちゃんと観察してる割に手は出さないよな」と言った。
「手を出す場面じゃなかったので」
「分かるのか」
「なんとなくです」
「まあ、なるようになる」テルが自転車に乗って帰った。今日の「なるようになる」は、昨日より少し声が戻っていた。
翌朝、スマホに通知が入った。
グループトークに、ミオからメッセージが届いていた。
〈みなさん、今週の定休日、もし予定がなければ全員で会いたいです。伝えたいことがあります。来られますか〉
送信時刻は朝の七時だった。
ソウがまだベッドの中でメッセージを読んでいると、次々と返信が来た。
ナナ「行きます!!」
カイ「行けます」
テル「行く」
レイ「参加します」
ソウも「行きます」と返した。
既読がついて、ミオから「ありがとうございます」とだけ来た。
定休日まで二日あった。
その二日が、各自にとってどんな日になったかを、ソウは後で聞いた。
ナナは「ちゃんと能力を使わないで出勤する練習をしてた」と言った。「遅刻しそうになったけど三十秒前に着いた。新記録だった」。それを「練習の成果」と言うので、「新記録が三十秒前ということ自体はどうなんですか」と聞いたら、「細かいことを言う人だ」と返ってきた。
カイは「体重を量ってました」と言った。「一日三回」。「なぜ三回ですか」と聞いたら、「なんとなく気になって」と答えた。「重力を操作できるのに体重が気になるんですか」と言うと、「あれは物体の重力であって、自分の体重は別です」と言った。「物体に自分は含まれないんですか」と聞いたら「…含まれますね」と言って、少し遠い目をしていた。
テルは「じゃんけんで誰かに一回でも負けようとして、コンビニの店員さんに勝負を挑んだ」と言った。「なんて言って挑んだんですか」と聞いたら「特に何も言わずに手を出した」と言った。「反応どうでしたか」と聞いたら「普通に応じてくれたけど、俺が勝った」と言った。「まあそうですよね」と答えたら、「まあ、なるようになる」と言っていた。
レイは「封印について調べていました」と言った。「何を調べていたんですか」と聞いたら「封印した後、境界を感じる感覚がどうなるかを考えていました。考えても分からないことが分かりました」と答えた。「考えた甲斐がありましたね」と言ったら「意味が分かりません」と言われた。
ソウ自身はその二日間、ミオが「千年かけて知ったことを、どう言えばいいかを考えています」と言ったのを繰り返し思い出していた。
千年。
自分が生まれるより、この国ができるより、ずっと前から、ミオはこの世界のことを知っていた。誰にも言えないまま、弁当を複製し続けていた。
ソウにはそれが、どういうことなのか、まだ本当には分からなかった。
定休日の朝、七時半。
スマホに通知が来た。
ミオからだった。
〈場所を変えたいと思います。ついてきてもらえますか〉
「どこですか」とソウが返すと、ミオから画像が送られてきた。
地図だった。
見覚えのない場所だった。
ただ——地図の右端に、青い色が広がっていた。
海だった。
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