表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アップデートしてください。〜うちのバイト先、なんか変な人しかいないんですけど〜  作者: ハル
糸が繋がる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/67

第64話「28%から14%」

---


 木曜日の朝、ナナが計算してきた。


 ロッカーの前でソウに「昨日の夜ずっと計算してた」と言った。手帳に数字が書いてある。


「何を計算したんですか」


「能力使用のペースと安定性の低下の相関。テツジンさんのグラフと、私が持ってる使用記録を照合した」


「照合したんですか」


「一時間かかったけど」


「何が分かりましたか」


「大体一致してる。私の使用頻度が上がった時期と、グラフの傾きが急になった時期が重なってる」


「全員分ですか」


「私とカイとテルの分だけ。レイさんとミオさんは記録持ってないから」


「三人分でも一致するんですね」


「うん。おそらく全員含めたら、もっと相関が高い」


 ナナが手帳を閉じた。「これ、テツジンさんに見せた方がいいかな」


「見せていいと思います。テツジンさんは嬉しいと思いますよ」


「なんで」


「観測を補助してくれる人がいるから、ということで」


「ああ」とナナが言った。「私も観測者的なことになれる?」


「なれると思います」


「じゃあなる」



 



 昼休憩、テツジンは今日も来ていた。


 ナナが手帳を持ってテツジンの前に座った。


「見ていただけますか」


 テツジンが手帳を受け取った。ページをめくる。


「……これはよく調べましたね」


「一時間かかりました」


「相関係数は高い。私の観測と一致している部分が多い」


「役に立ちますか」


「はい。あなたの視点から見た記録は、私の観測と違う角度が入っています」


「違う角度、というのは」


「私は世界の側から見ています。あなたは当事者の側から見ている。同じ出来事でも、見え方が違う。それが補完になります」


 ナナが少し嬉しそうにした。


「じゃあ、これからも記録し続けます」


「助かります」



 



 午後、ソウはレイに聞いた。


「レイさんも記録を残していますか」


「感覚的なものを、ノートに書いています。数字ではなく」


「感覚を文字にしているということですか」


「境界の感触の変化、空間の密度の感じ方、光の見え方——数字にできないものを、言葉で記録しています」


「見せてもらえますか」


 レイが少し間を置いた。「……今日は持っていません。また今度、よければ」


「ありがとうございます」


「ソウ」


「はい」


「一つ確認してもいいですか」


「どうぞ」


「私たちが観測される、ということは——私たちが存在していることを、あなたが認識し続けるということですか」


「そう理解しています」


「私たちがいなくなっても、記憶として観測することはできますか」


 ソウは少し間を置いた。


「……できると思います。でもそれは、今の話をしていますか」


「今ではありません。六十三日後以降の話です」


「それはまだ考えなくていいと思います」


「でも考えてしまいます」


「考えること自体は止められないですが」とソウは言った。「今日、俺はレイさんがここにいることを認識しています。それが今日の観測です」


 レイが少し間を置いた。


「……ありがとうございます」


「何が」


「今日もいることを、言ってもらえたので」



 



 夕方、ナナがバックヤードでソウに「ソウ、私さ、一個聞いていい?」と言った。


「何ですか」


「六十三日が終わった後、どうなるか、ちゃんと聞いてる?」


「テツジンさんから、世界の安定性がゼロになると何が起きるか、という話は聞いていないです」


「聞いておいた方がよくない?」


「そうですね」


「私は……正直、怖い。でも知りたい」


「次にテツジンさんが来たとき、一緒に聞きましょう」


「うん」


 ナナが少し間を置いた。


「ソウは怖くない?」


「怖いです」


「でも聞く」


「聞かないと余計怖い気がします」


「なんか、そういうとこ、ソウらしいな」とナナが言った。「気のせいかって流しながら、ちゃんと聞いてる」


「流すのをやめた方がよかったと思ってます、最近」


「でもそれが、ソウがソウである理由でもあると思うよ」とナナは言って、「よく分かんない言い方になっちゃったけど」と笑った。



 



 閉店後、ソウは一人でスマホのメモを見た。


 リストが増えていた。富士山。島。地面。時計。星。境界線。気温計。じゃんけん。潮流。空気の密度。ネジ三万本。


 今日はリストに「二年で九十二から五十八」という数字を足した。


 「一緒にいることが観測になる」というテツジンの言葉も書いた。


 ソウは画面を閉じて、空を見上げた。


 星が、また少ない。


 でも、あった。まだあった。


 今夜も、世界はちゃんとそこにあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ