表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アップデートしてください。〜うちのバイト先、なんか変な人しかいないんですけど〜  作者: ハル
糸が繋がる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

101/104

第101話「答えを出す日の朝」

---


 翌朝、ソウはいつもより早く起きた。


 特に理由はなかった。ただ——昨夜、「明日、答えを出そう」と言われて——眠れなかったわけじゃないが、すぐには眠れなかった。


 七時に家を出た。バイトは十時からだ。



 



 最寄り駅の交差点で、ナナとぶつかった。


「ソウさん」


「ナナさん。早いですね」


「早起きしてみました」


「いつもより何時間早いですか」


「二時間です」


「それはかなり早いですね」


「昨日の帰り道に思ったんです。今日は能力を使わないで来てみようって」


「それで二時間早起きを」


「はい。結果、三十分余りました」


「計算が合ってないですね」


「そうですね」とナナが言った。「まあ早い分には問題ないですよ」



 



 二人で歩いた。


「今日——答えを出すんですよね」とナナが言った。


「そうですね。バイトの後で」


「決められるかどうか、わからないですけど」


「決めようとするだけでもいいと思います」


「ソウさんは不思議ですね。いつも急がない」


「急いでも仕方ないことが多いので」


「でも今日は大事なことを決める日なのに」


「大事だから——急いで決めない方がいいと思って」


 ナナが「そういうものですか」と言った。


「そういうものかどうか、俺もわからないですけどね」



 



 交差点で信号が赤になった。


 ナナが横で立ち止まった。少しだけ手が前に出かけた気がした。でも——動かなかった。


「止めませんでしたね」とソウが言った。


「止めてないです」


「いつもここで止めてましたか」


「……毎回じゃないですけど、この信号、長いので」


「今日は待ちましたね」


「待ちました」とナナが言った。「なんか——待てましたね」


 青になった。二人で渡った。


「一個変わりましたね」とソウが言った。


「信号が青になるのを待てたことが、ですか?」


「それで十分だと思います」



 



 店に着くと、テルがシャッターの前に座っていた。


「テルさん、早いですね」


「目が覚めた」


「眠れなかったですか」


「眠れたけど、起きた」


「区別がつかないですね」


「まあ」とテルが言った。「今日、信号でじゃんけんしなかった。一個止められた」


「俺もです」とナナが言った。「信号で時間停止しなかった」


「一個ずつ変わってきてますね」とソウが言った。


「一個ずつくらいでいいんじゃないか」とテルが言った。「一気に変えようとすると、続かない」


「テルさんらしい言い方ですね」


「そうかな。まあ——なるようになるさ」


 いつもと少し違う言い方だった。ソウはそれに気づいた。



 



 十時になって、開店した。


 田所店長が「今日みんな妙に静かだな」と言った。


「いつもですよ」とソウが言った。


「いや、今日は違う。なんか——落ち着いてる感じがする」


「そうですか」


「まあ、仕事に差し支えないなら何でもいい」と店長が言った。「ただ——何かあったなら、声かけてくれよ。俺はここにいるから」


 ソウは「はい」と言った。


 店長はいつも通りバックヤードに消えた。



 



 午前中、一人の客が来た。


 スマホの機種変更の相談だった。ソウが対応した。カウンター越しに話しながら、ふと窓の外を見ると——ナナが外の駐車場で誰かの荷物を手伝っていた。


 重そうな荷物を持ち上げて、走って届けて、戻ってきた。


 息を切らしていた。


 能力は使っていなかった。


 なんか変じゃない、とソウは思った。変じゃなかった。普通に、誰かのために走っていた。



 



〈静岡市の時計メーカーが報告したところによると、今月に入って工場出荷前の時計の秒針が、全品コンマ三秒のズレを持つようになっているとのこと。原因は製造工程の確認中〉


 テレビのニュースが流れた。


 テルが「コンマ三秒のズレ、か」と言った。


「何か思い当たりますか」とソウが聞いた。


「……先月、遅刻しそうな日に時計の秒針を少し巻き戻した。一回だけ」


「それが蓄積して」


「かもしれない。コンマ三秒って——俺が巻き戻した分に近い」


「今は止めてますよね」


「止めてる。でも——出てる」とテルが言った。「止めても出るのか」


「出るとしたら——修復に時間がかかるってことですかね」


「……そうかもしれない」


 テルがテレビを見ていた。しばらく黙っていた。


「まあ——なるようになる、と言いたいところだが」


「言えないですか」


「少し言いにくい。俺がやったことで出てるから」


 ソウは何も言わなかった。


 テルが「……今日、ちゃんと決めようと思う」と言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ