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ホワイトアウト・シティ  作者: 芦田直人(あしだ)
第4章 ブリザード
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5 取引(その2)

 いつの間にかすっかり夜も更けていた。風はすっかりその勢いを弱めていたが、窓の外を見やれば白い結晶が未だひらひらと舞っているのが分かる。

 サラエサラスが〈ブリザード〉の中でイゼルキュロスと遭遇し、その後ここまで一人でやってきたというのであれば、彼ら試作被検体にとっては無害なのだと判断してもよさそうではあった。

 とは言えライナはすっかり寝入ってしまったし、アイボリーも少女に付き従ったまま離れない。両名がここに留まるというので、サラエサラスもまた自身の隠れ家にわざわざ引き返すつもりもなく、ここで夜を明かすつもりのようだった。アシュレーにしてみれば不本意だったが、彼らの逗留を容認するより他になかった。

 アイボリーやライナからは少し距離を置いて退屈そうにしているサラエサラスに、アシュレーが問いかける。

「それで、いつから始めるんだ?」

「……向こうが一人でいるうちに片付けた方がいい。明日すぐにとりかかった方がいいと僕は思うね」

「今日〈ブリザード〉が来て、明日市街がどういう状況になっているかは分からないぞ?」

「少なくとも僕がここまで歩いて来てみた限りでは、この結晶の毒素はぼくら攻性生物には影響がないと見て大丈夫だろう。あなたも〈不死人〉だし、少し触ったくらいじゃ何ともないでしょう」

 アシュレーが気にかけていたのは往来に白い結晶が堆積したこの状況に、一般住民がどのように行動するのか、というような事だったのだが、サラエサラスはそれについては気に留めてもいないようだった。そこを追求するだけ、無駄だったかも知れない。

「必要以上に策を弄しても仕方がない。二手に分かれて、挟み撃ちしよう」

「挟み撃ち?」

「片方は、今頃街のどこかで迷子になっているはずの彼女を見つけ出す。もう片方は、彼女が逃げ込みそうな場所であらかじめ待ち伏せする。片方が追い込んで、挟撃して仕留めればいい」

「どこに逃げ込むのかなど、分かるというのか?」

「彼女はまだ、自分が何者だとか、その辺がうまく飲み込めていないようだった。うまく口説いて丸め込めればと思ったけど、それが無理なら僕らとそれ以上仲良くするのは難しいだろうから、結局元々のイゼルキュロスを当てにするしかないんじゃないのかな」

「イゼルキュロスがコピーを作ったという話なら、当のイゼルキュロスはどこにいる? コピーがその〈グラン・ファクトリー〉とかいう工場にいたという事は、イゼルキュロスもそこにいると踏んでいいのか?」

「いいや。今朝がたそこの工場の人たちが、連れ立って屑鉄平原に出かけていったから……これは僕の想像だけど、おそらく元のイゼルキュロスの死体を捨てに行ったんじゃないかと思うんだ」

「工場の技師というなら、何か屑鉄平原で仕事があっただけかも知れない」

「彼らは屑鉄平原でどの業者にも会わずに、ぐるりと回って、サイレンが鳴ったからそのまま工場に戻っていった。……で、その後でコピーが工場を飛び出した」

「そのどこかで、亡骸を捨てた、というのか」

「BEEがあとをつけていたのだから、それは間違いないよ」

「なら、その工場を飛び出した方のコピーが、捨てられたイゼルキュロスを探して屑鉄平原へ逃げるというのか」

「うまく行けばそうなるんじゃないかな。まあ、コピー人形がイゼルキュロスを頼るという思いにまったく至らなければ、待ち伏せは空振りに終わるわけだけど……それならそれで、こっちで始末してしまえばいい話だよ。工場街か旧市街を一人でほっつき歩いていれば、すぐ見つかるはずだよ。閉鎖区画に埋めた連中が今頃見つかってこの間から大騒ぎになっちゃってるみたいだから、出来るだけ屑鉄平原の方に誘い出したいのは山々だけどね」

「大人しく一人で工場に舞い戻ることも考えられる。無関係な人間を巻き込むと、事が大きくなるぞ?」

「その場合は諦めて、コピー人形がまたいずれ一人になるタイミングを待とう。どっちにしても工場の様子をBEEにこっそり窺わせて、報告させればいい。……アイボリー、またBEEを貸して貰えるように、ライナに頼んでおいてよ」

 アイボリーは渋々頷いた。

「それで、どういう分担にするつもりなの?」

「アイボリー、君はやっぱりライナと一緒がいいよね? だったら僕は、このお二人と一緒に行動するよ」

「じゃあ、私達は屑鉄平原で待ち伏せする方に回るわ。……あなたたちの方でけりがつけば、それに越したことはないし」

 ライナを荒事に巻き込みたくない、と先に言ったように、アイボリーはそのように返事した。

 アシュレーはここまで一言も発言していないミハルの方を振り仰ぐ。機械の彼女が今のこの場でアシュレーや他の面々に対して露骨に異を唱える事はないだろうが、彼女なりに状況を分析した上で、アシュレーの判断に対して反論もあったかも知れない。

「……勝手に話を進めたが、何か言いたい事はあるか?」

「私は機械ですから、あなたの判断に従います……ですが念のため、私からも質問をしてよろしいですか?」

「どうぞ。機械人形さん」

「推論としては興味深いですが、今の所あなたの話で確実なのは、あなたが交戦したという相手がイゼルキュロスないしそのコピーである、という一点だけではないでしょうか。〈ブリザード〉の前にその工場の人達が屑鉄平原に出かけた理由もわかりませんし、その工場に本当にイゼルキュロスの本体が収容されていたのかどうかも分からない」

「僕が一戦交えたそのそのコピーの彼女が、しばらく工場に滞在していたのは確かだよ。イゼルキュロスにそっくりだし、〈ブリザード〉の中でも平気でいられるのは間違いなく普通の人間じゃない。それがイゼルキュロスと全く関係のない第三者だって考える方が突飛だと思うけど」

「……その点は確かにその通りだろうな。その彼女が実際に工場に潜伏していたというのが事実なら、工場がコピーの発生場所だという推測も、ある程度信憑性があると見ていいんじゃないか」

「では、工場の人たちが実際にイゼルキュロスを廃棄したと仮定して、その場所が分からないのでは待ち伏せのしようがないのではないですか? そもそもコピーの方にしても、どうやって屑鉄平原のイゼルキュロスの現在地を察知するのでしょう」

「BEEが、今日の彼らの行動ルートは把握しているから、BEEが知っている事はライナも知っている。だからライナを連れて行けば場所は特定できる。……問題はコピーが本当に屑鉄平原に向かうかどうかだけど、ここは僕も確証があるわけじゃないから、実際に接触してみないと彼女がどう出るかは分からないな……」

「コピーの方を無事市内で見つけられたとして、町中で無闇に襲いかかるわけにもいかないと思うが、この点はどうだ? 〈ブリザード〉が何日も続くならともかく、今晩のこの様子じゃ朝までには止んでいそうだ」

「旧市街なら、閉鎖区画の近くなら日中でもほとんど人気はないし、工場街の方に戻っていったのであればクレーター湖か屑鉄平原に誘い出せば大丈夫さ。……そもそもそのために屑鉄平原で挟み撃ちにしようって話なんだからね。それに多少目撃者がいたところで、僕らはともかくあなたが彼女に発砲する分には、それがあなたの任務なのだから何の問題にもならないはずだよ」

 サラエサラスはそんな風に、実に何でもないような口調で物騒なことをさらりと言ってのけるのだった。

 簡単に言ってくれるな、とアシュレーは苦笑いして、白い結晶の舞う窓の外に目をやったのだった。



(次章につづく)

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