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無愛想彫金師はまじなう  作者: 長久保いずみ


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第9話 呪術師ギルド

 翌日の昼。


 サンドラの家とは、大通りを挟んで反対側。


 複雑に入り組んだ道は、そのままギルドへ繋がる暗号のようであった。


 何度も右へ左へ折れ、方向感覚が狂いそうになる。


 しかし薄暗い道なのに、浮浪者はいない。


 当然だ。


 ここは、彼らのような脆弱な人間ではあっという間に食い散らかされる者たちが潜んでいるのだから。




 サンドラが辿り着いたのは、細長い暖簾があるだけの質素な入り口だった。


 看板も、暖簾になにが書いてあるわけでもない。


 しかしここは、まごうことなく呪術師ギルドの入り口だった。


 暖簾をくぐる。


 中は不気味なほど普通の料理屋だった。しかし誰もいない。


「……いらっしゃい」


 カウンターに気だるげに肘をつく店主がサンドラに言う。


 サンドラはカウンターに座った。


「星の砂、ミツバチの羽毛、それから女王アリの冠」


 そう言うと、店主も答える。


「ヒイロトカゲが逃げ出した。ニジクジャクの卵が(かえ)る」


「エダツノカブトは王座を譲りました。ハチドリが海を渡るそうで」


「いずれ月が太陽を飲み込む」


「太陽が星を食べる」


「なにが望みだ」


 唐突に店主が言った。サンドラは臆せず答える。


「表の仕事でお客さんを店に呼びたいの。治安維持のために道に呪術を張る許可を欲しいの」


「なんだ、そんなのみんな勝手にやっている」


「あら、そうなの?」


 店主が肩透かしを食らったように手を振った。


「秘密主義者の集まりだからな、うちは。道順さえ間違わなきゃ辿り着ける」


「そうだったわね。お詫びに一品貰おうかしら」


「昼間から酒か?」


「この後表のギルドに行くからいいわ。小腹を満たせるものが良いの」


「あいよ」


 店主はのっそりとカウンターから離れた。


 料理を待つ間、サンドラはどうやって安全な道を敷こうか考えていた。


◆   ◆    ◆


 呪術師ギルドを後にしたサンドラは、その足で彫金師ギルドに向かった。


 いつもより遅くに顔を出すから、良い案件は残っていないだろう。そういう仕事を(さば)くのもまた楽しかった。


「こんにちは」


 と言ってドアを開けると、


「あ、ちょうど来ましたよ」


 職員がこちらを見てそう言っている場面だった。


「サンドラさん」


 職員に手招きされるまま、サンドラは受付に向かう。


「どうしました?」


「こちらの依頼を引き受けてくれないでしょうか」


 職員の言葉に目を見開いた。


 正規の手続きはどうあれ、この町で初めての指名依頼だ。


 指示された方には、不安そうに立つ女性がいる。


「……まずは、依頼内容を確認させてください」


 サンドラは言った。


「部屋を借りても?」


「はい。第三応接室が空いています」


 職員に連れられて、サンドラと女性はそちらに向かう。


 対面で置かれているソファにそれぞれ座り、サンドラは口を開いた。


「改めまして、彫金師のサンドラと申します。御指名いただき、ありがとうございます」


「あ……あの」


 女性が口をもごもごとさせる。


「私、話を聞いて……」


「はい」


「の、呪いが解けるって……」


「はい。できます」


「…………」


 女性はポケットからなにかを取り出す。ハンカチに包まれているようだった。


「これを、この呪いを、解いてくれませんか?」


「拝見します」


 サンドラはハンカチを受け取り、開く。


 そこには一つのブローチがあった。立体的な一輪の花が凛と咲いている。


 一見すると、ただのブローチにしか見えない。


 ……が。


(これは……)


 うっすらと。だがはっきりと。


 呪いの痕跡があった。

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