09 天使の答え
銀河の果てを二人で歩く。宇宙が無限に広がる。星々が調和し、ガスがうずまく中を二人が歩く。一人は翼があった。もう一人にはなかった。
だから二人で歩いた。
「見て、星が生まれる」
ユキの顔をした天使が指さした先にガスの塊がある。咲夜は言われるまま、それを見た。ガスがくるくると回転しながら集まり、巨大な力の塊になっていく。回転の中心に光と爆発が起きた。
ガスの中に、瞬きが一つ増えた。
「……凄いな」
素直に感嘆する咲夜にユキが無表情で頷く。自分達の周りに薄くたなびくガスともモヤともつかないものを指先でちょん、と触った。モヤモヤと動くと消えてなくなる。
「この星の、一つ一つ全部がああして生まれる。最初からあったんだよ。見えなかっただけ」
天使の言葉は不可解だった。咲夜は目の前で誕生した星を見て、またユキを見る。
「ないから、生まれたんだろ?」
天使もまた、不可解だったのだろうか。もう一度、今度は咲夜に寄せた言い方をした。
「あるから、生まれた」
「………分からん」
咲夜がお手上げだと言うように肩をすくめた。天使もよく分からないと言うように首を傾げる。
その顔にほんの少し申し訳なさを覚えると咲夜は再び口を開く。最初から理解を放棄するもんじゃないと思い直す。
「最初から…目に見えなくてもある、と言ったよな。星が……いや、星は生まれたんだ、だからあるのは星になるための「何か」だ。違うか?」
咲夜が頭をガリガリとかきながら質問する。天使は事も無げに頷くと「そうだよ」と言った。
「神の意識があったの」
そう、言った。
咲夜が口を開けたり閉じたりしている。
「……神……そんなものが、本当にいるのか?」
「いる」
天使の答えは明瞭だった。咲夜の疑問とも、苛立ちともつかないものが胸の中にざらつきを呼び起こす。
「……じゃあ何で苦しみがある?」
「……」
天使は答えない。咲夜が天使の肩を掴んだ。
「じゃあ何で痛みはある!?」
「……」
再びの沈黙。多分、相手が天使じゃなければ咲夜は殴っていただろう。
「………俺があの家で兄貴に何されてきたか……聞いたら腰抜かすぜ?天使サマ」
「……」
三度の沈黙。既に咲夜は返答を期待してなどいなかった。掴んだ両肩をがくがく揺らす。
「橘の家で……俺は兄貴に……10年間レイプされた。10年だぞ10年!その間、神はどこにいた?なあ、おい…教えてくれよ…神は…どこにいたんだよ!?」
「いつでも、あなたと共にいた」
冷静沈着な天使の言葉。咲夜は「くそったれ!そんなの、知るかよ!!」と叫ぶ。
叫んで、目が覚めた。
やはり、何も覚えていなかった。




