10 好きの形
なぜか、目の前のユキを見ると、ムカムカする。好きなはずなのにイライラして仕方ない。
一瞬、首をしめてやろうかな、と思うが踏みとどまった。
目を閉じて眠るのが少し惜しい。ずっと一緒にいたい。それはそう思う。
でも同時に無性に壊したくなる。傷つけたくなる。
咲夜はギュッと目を閉じた。自分だって何をしているか本当は分かっている。ユキは十分被害者だ。これ以上、苦しむ必要はない。
ユキが起きてたら「殺さないだけ偉いでしょ、とでも言いたいの?自己憐憫も自己愛も気持ち悪いんだよクソ野郎」とでも言ってただろうが、生憎と彼女は眠っていた。咲夜も眠る。
彼女の柔らかい身体に顔を埋めた。
ユキが呻いた。無視した。
…そしてやはり、意識は空へ宙へ。銀河へと向かった。
「……ユキ」
咲夜が銀河のほとりに立つユキの姿をした天使に顔をしかめる。さっきぶりだがあの不快感は覚えている。
一歩、近づいた。
「神はいる…だったか。じゃあこのお綺麗な銀河の真っ只中で、裸にひんむいて犯しても同じことが言えるのかよ?」天使相手に咲夜は吠えた。
手を伸ばせば触れる距離に天使と咲夜は立つ。
「言えるよ。観念じゃなく、事実だから。この宇宙は神の内側。ここには途切れることなく神の意識で満ちている」
ユキが上(宇宙に上や下があるかは咲夜にはわからなかったが)を見て言った。
「神は「在れ」と言って産み出し、「在る」と言って維持し、「在り」と言って終わらせる。そうして、再び生まれるまで沈黙するんだよ。それは摂理だから、誰にも否定できない」
宇宙の真理、摂理…絶対の。違う…咲夜が聞きたかったのはそういうことじゃない…。
「俺、は…じゃあ…俺の何もかも、神が責任とってくれんのか?生んだんだろ?作ったんだろ?その責任だよ…責任!」
天使がわずかに眉を寄せる。理解が出来ない、と言いたそうに。しかし、すぐに一歩、近寄ると手を伸ばす。咲夜の顔をぬぐった。
「泣かないで…」
天使が涙の粒を口に含む。途端に苦々しく顔を歪めた。それを見て咲夜が笑う。口元だけで。
「地球の…その中でもとっておきの、変態ストーカー監禁凌辱野郎の涙だぜ?お綺麗な銀河のほとりの天使様の口には合わねえだろうがよ」
クック、と笑う。笑って…黙って天使に口づけた。
天使がびっくりした顔で唇を触る。その顔を見ただけでも咲夜はニヤリと笑う。
「驚いたか?天使様でもそんな面すんだな。ザマアミロ」
咲夜の軽口に天使が首を傾げる。全く意味が分かってない。地上の、人間のユキに少し似てると思った。
不意に咲夜は胸が掻きむしられるような切なさを覚えた。恋…違う。愛…もっと違う。優しさでも愛おしさでもない。
罪悪感……それだった。
「なあ、ユキ……俺、お前に酷いことばっかりしてるんだ……」
言葉を切る。天使が静かに聞いていた。咲夜がその身体を抱き寄せて...抱き締めた。
「………ごめんな」
この言葉も何もかも、宇宙の果てに置いていく。目覚めれば全て忘れる。
そうと知っていても、咲夜は言わずにはいられなかった。
抱き締めて、肩を震わせて泣いた。




