08 橘という家
橘財閥。代々異常者を輩出してきた悪魔の家系。その悪魔の一人が橘咲夜という男だった。
「おう、咲夜。来たか」
代表取り締まりの部屋。いわゆる社長室に男はいた。橘周防。咲夜の実兄である。
自分を見た瞬間、暗い淵のような目になる弟に嗜虐的な喜びを感じて周防は身体を熱くさせた。咲夜の肩に腕を回し、耳元に囁く。
「咲夜あ、そんな目で見られたら、お兄ちゃん興奮するだろう?それとも…誘ってる?」
「ッ……ふ、ざけんな!糞が!!」
咲夜が腕を振り払うと、周防が「冗談だよ、冗談。怒んなって」と言って嗤う。相変わらずウブで可愛いい反応を見せてくれる。
「今回はお前の可愛いペットについてだ」
「……」
黙って兄の周防を睨む咲夜。しかし周防はニヤニヤと嫌らしい笑みを崩すことはない。
「親、探してるみたいだから、黙らせといた。橘のモノになりましたって言ったら……泣いてたぜ?マジでウケる」
日本有数の財閥である橘。そこに取り込まれたとなればもう、生きて会えるかどうかも疑わしい。
「感謝しろよ、弟。あの家に3000万くれてやったんだからよ」
周防が咲夜の肩にポン、と手を置いた。しかし咲夜はそれを払いのけると冷えきった声で「そうかよ」と言ったきり扉に向かう。
「話はそれで終いか?なら俺は帰るぞ。可愛い可愛い妻が待ってるんだよ」
周防がくっくっ、と喉を震わせると「好きにしろ」と言った。冷えきった兄弟の、兄から弟へのプレゼントの報告だった。
咲夜は不機嫌を隠そうともせず、ユキを押し倒した。目は暗い穴のようだ。
「……何かあったの?」
聞いてやる義理はない、そう思いながらも、口をついて自然に出た。
「…別に」
咲夜もまた、答えてやる義理はない。所詮はレイプだ。糞みたいな…加害者と被害者の関係。
「…チッ…。さっさと股、開けよ」
わざと汚い、暴力的な言葉を使う。とにかく目の前の女を力でも言葉でも、殴りたかった。
水音と、血の臭い、女と男の臭い。
肉が混ざり合う、醜悪な臭いだ。
咲夜は心の底から嫌悪するものを、自らの手で作っていく。
地獄を…地獄を…地獄を。
咲夜の目の中に、地獄が広がっていた。
銀河の果てを二人で歩く。宇宙が無限に広がる。星々が調和し、ガスがうずまく中を二人が歩く。一人は翼があった。もう一人にはなかった。
だから二人で歩いた。




