04 暴力
ユキがぶるっと震えると目の前に立つ男の人を見上げた。橘くんがベッドに乗ってくる。優しい声でユキに囁いた。
「ねえ、ドアノブ、触ったね?」
触ったらダメだっただろうか。
でも、自分も出なくちゃって思ったから…。
かいつまんで説明する。橘咲夜がユキの腰の上にまたがって、逃げ場を塞ぐ。
「………ふーん」
ガッ!と拳が飛んできた。
顔に衝撃が走る。痛い。すぐにジンジン、ヒリヒリとした痛みが襲った。
「ユキ、お前……俺のこと、バカにしてるだろ?」
話し方が違う。今までのかわいい後輩ではなく、自分にまたがって拳で殴る190cmの大きな男がそこにはいた。
思わずビクッと身体が小さく震える。ユキは今まであえて考えないようにしていたことが脳内を駆け巡る。
内側から開かないオートロックの扉……監禁。
冷蔵庫の好物ばかりが並ぶ作り置きにぴったりの服と下着……ストーカー。
服を丁寧な手つきで剥がされる。下着も、全部。
「…やめて」
掠れた声をやっと絞り出したユキの首にそっと手を乗せられる。ゆっくり、ゆっくり、力を込めていく。
「なんで?俺達…恋人同士だろう?」
咲夜の声が哀しそうに響く。指の力がゆっくりと込められていく。
「そうだろう?そうだと言ってくれ」
喉からカハッと変な音が出る。それでも力を緩めるつもりも、離すつもりもないらしい。
「…そ…う…で、す」
パッ!と両手を離す。一気に流れ込んできた酸素が喉をひやりと通っていった。ガバッと抱きつかれ、今しがたのやり取りを引き摺る身体がビクリ、と揺れた。
しかし、そんな事は歯牙にもかけず、咲夜は「良かった」と言った。そのまま耳元で「じゃあ、何も遠慮はいらないよね」と囁いた。
ぐぐ、と腰を落とす。そのままトプン、と沈めた。引いて、押して、引いて、押して、咲夜が「気持ちいい、気持ちいい」って繰り返した。そうして、何回も何回も欲を吐き出した。
「やめて」って言おうとした。「いやだ」って叫びたかった。
でも、怖くて…怖くて…怖くて。
喉の奥から言葉が出ることはなかった。
咲夜は朝が来るまでずっと、ユキに同じことを繰り返した。
翌朝、咲夜は何事もないかのように起きて、情事の跡が残るユキの身体を丁寧に、優しく拭き取った。
ユキは目を開けて、されるがままになっている。文句も言わず、顔をピクリとも動かさなかった。
「ねえ、ユキ。冷蔵庫のもの、今日もちゃんと食べるんだよ。俺はね、肉付きがいい方が好きなんだ」と咲夜が綺麗な顔で笑う。
そうして声を低くした。支配者の声。冷たい眼差し。
「返事は?」
ユキがビクリと身体を痙攣させる。喘ぐように口を開くと掠れた声で「は……い…」と言った。
咲夜の雰囲気がパッと変わった。頭を抱き抱えると「んー、可愛い可愛い可愛いねえ…」と頬擦りする。
咲夜はやはり今日も風呂と食事をするようにユキに言うと出ていった。ユキはノロノロと這いずるようにベッドから出ると、そのままベッドに背中を預けて床に座り込んだ。
そうして、両手で顔を覆うと泣いた。
1ヶ月、それから2ヶ月、3ヶ月、半年……毎日毎日同じことの繰り返し。
そして、決まって言われるのは「もう少し食べろ。肉付きがいい方が好き」という言葉だった。




