03 ぴったりの家
橘くんが、笑ってる。ニコニコと、屈託なく。
「僕は仕事に行ってくるから、ユキは寝てて。冷蔵庫のもの、適当に食べていいから。夜までにシャワーも浴びておいてね」
そう言われて「いや、待って!私も出勤だよ」と言う。「まあまあ」と言って橘くんがユキをベッドに押し戻すと笑いながら有無を言わせぬ態度で「寝てる」と言った。
そのまま橘くんだけが身支度をして、部屋から出ていく。バタン、と扉が閉まる音と共にユキは床の服をひっつかむと袖を通した。そのままいつものスーツ姿になってノブに手をかけて回す。
扉を開けようとして、固まった。
回らない。そして鍵穴がない。
「………え?」
開かない扉の前でしばらく考える。考えて…考えて…考えて…。
「まあ、いいか」
諦めた。
次に冷蔵庫を開けると何故か自分の好物ばかりが入っていた。しかも全部手作り。
ユキはラップのかかった茄子の煮浸しを取ると、テーブルに置く。ご飯は炊けていて茶碗は伏せてあった。
軽く一膳、茄子の煮浸しをおかずに食べる。
「美味しい!」
好物を食べてちょっぴり幸せになった。
そういえばシャワーを浴びておいてね、と言われたことを思い出す。途端に自分の身体が汗臭く感じた。
ユキは他人の家の間取りに少し苦戦しながらも風呂に辿り着く。既に湯が張られ、ほわほわと湯気が立つ。
服を脱いだ。裸になった。
風呂場で身体を洗い、頭を洗い、湯船につかる。口から「ふう…」という声が漏れた。
風呂上がり、湯気を身体からあげているユキはまた脱いだ服を着るのはいやだな、と思う。
バスタオルを巻いたまま寝室に入るとクローゼットを発見する。何故か自分にぴったりサイズの部屋着がずらりと並んでいた。
「……よし」
いくつかある中から一枚選ぶ。作りつけのチェストには自分のサイズの下着がやはりずらりと並んでいた。
何となく罪悪感に駆られながらぴったりサイズの下着をつける。女性ものの下着や部屋着を集める趣味があったとは知らなかった。
橘くんが帰ってきても、服や下着の件には触れないようにしておこう、と心に決めるユキだった。
食べて、風呂に入って、着替えて……あとはやることは一つしか残っていない。ベッドの中に潜り込むとユキは寝た。
起きたら夜だった。真っ暗な部屋に月明かりが差し込んでいる。ドアが開く音がした。
「ユキ、いい子で待ってた?」
橘くんが低い声で囁くように言う。静かに、静かに、やって来る。床の板が軋む音が響いた。
真っ暗な部屋に、190cmの男。月明かりが、余計に不気味さを増す。
ユキの身体がベッドの上で小さくふるえた。




