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神の歌  作者: 遵由
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02 笑顔

とりあえず、書きためたやつを全部放出します。

「いやあ、おかげで助かったよ」

橘さんが人当たりの良い笑顔を浮かべた。


「僕、ちょっとおっちょこちょいな所があってさ…書類とか無くしやすいんだよね…」


語尾を力なく下げると端正な顔に影が出来る。いちいち綺麗なそれを見てユキはこんな顔面偏差値が高い人もいるんだな、と思った。


時刻は間もなく21時に差し掛かろうとしている。

今日は早く帰って寝なければ明日の業務に差し支えるだろう、と判断すると「じゃあ橘さん、お疲れさまです」と言って出ていこうとした。


「ちょっ、ちょっと待って!一緒にご飯食べませんか?」

今日のお礼に、とかお詫びも兼ねて…なんて必死に言葉を言い繕っている。


(なんだ、橘財閥の御曹子って言うから身構えたけど、普通じゃん)


ユキはニコ、と笑うと「もちろんです。もしかして、奢りです?」とおどけて見せた。


一応、自分が先輩なんだからもちろん財布は自分が出す。財閥御曹子だろうが仮に大金を持っていようが、後輩に出させて食べる食事などユキの中ではありえない。


しかし、それはそれ。


大財閥の御曹子ともなれば、さぞかし金持ちなんだろう?とブラックジョークをかましてみた。

まあ、あくまでも冗談。私の奢りでご飯行こうよ、と言いかけたその時だった。


「何言ってるんですか、勿論ですよ」


橘咲夜の一言に目を見開くユキ。「え?でも、そんな!後輩に奢ってもらうなんて!」そう言って断ろうとした矢先、グイ、と手を引かれた。


「いいからいいから。一応知ってるとは思いますけど、ここの元締め一家みたいなものですから」


お金のことなら心配しないで、と言われて余計に眉を寄せる。それは先輩が後輩に言うセリフだ。

それでもこの後輩がせっかく気持ちで食事に誘ってくれたのだ。無碍にするのも大人げない。そう思い直して着いていった。


大人な雰囲気のバーに連れていかれる。初めての経験にチラチラと左右を見た。


「本当はレストランとかがいいんでしょうけど……もう開いてなくて」と眉を下げる咲夜にユキが首を振った。


「こういうところ、初めてだから楽しいよ」


咲夜は良かった、とホッとしたように笑うと「さあ、取り敢えず食べましょう」と言った。


食べて…少しだけ飲んだのも覚えている。美味しいな、と思ったのも覚えている。




そして今、咲夜と私は裸で寝ていた。


「……は?え?……何で?」


自分は全裸。隣に眠る咲夜君も同じ。そして、身体の芯に重いだるさを感じて恐る恐る下に触れる。明らかに自分のものではない何かが「コポ……」と小さな音と共に溢れた。


「っっ………!!?」


呆気にとられていると、隣の男、咲夜が「……うぅん」と呻いて目を開けた。


「おはよう、ユキ」

彼は優しく目を細めると、そう言った。


「………おはよう」


私は何を馬鹿みたいに返事をしているんだろう、と頭を抱える。あのまま一線を越えてしまったんだなあ、と思うとやるせない気持ちになった。


「私たち、何があったの?なんて馬鹿なことは聞かないよ。中学生じゃあるまいしさ」


お互い、20代のいい大人だ。昨日あったであろう、こーんなことやあーんなことはお互い胸に秘めて今は出勤について考えよう。


これは決して現実逃避じゃない、と自分に言いきかせながらブラウスを手に取った途端、橘君が眉をひそめる。


「え?ユキ、逃げるの?」


その一言に「ユキ?何で名前呼び?」と尋ねる。何だかとっても嫌な予感がした。


「嫌だな、忘れちゃったの?僕たち、昨日から付き合ってるじゃないか」小首を傾げて自分を見上げる橘君のサラサラの黒髪が揺れた。端正な目が悲しそうに揺れている。


「その……全然覚えてない……けど」


ユキがそう言うのを見越していたのだろう。橘君がニコ、と笑うとスマホを取り出す。動画を再生し出した。


昨日のお店だ。二人ともグラスを持っている。


「ねえ、センパイ?」 

橘くんが殊更に優しく、甘い声を出した。半分以上寝ぼけた声で動画の中の自分がむにゃむにゃ答える。


「なあに。」


橘くんがグラスを置いて私の手を取ると、そっと指を絡めてきた。

……え?恋人つなぎ?……


「僕たち、付き合いましょう?」


さらりと告白した。まるでジュース、飲みましょう?みたいに言っている。全然大したことない雰囲気で、指を絡めて。


「んー、いいよ」


もう半分は寝てる頭でそんな事言われたって判断なんかできるわけない。動画の中の自分はもう目を閉じてる。

橘くんはなおも続けた。


「あ、じゃあ僕の家に来ませんか?」

「んー…いえ……」


何かもう、橘くんが怖い。

だって……手口、鮮やかすぎる。

何人にこんなことしてきたんだろう……この子。


「ええ。恋人らしいこと、しましょう?」

「う、ん……いいよ」


スマホの中でニコ、と橘くんが笑った。夢うつつで頷く自分。いや、これ……普通に犯罪なんじゃ……そう思って目の前の橘くんを見上げた。

背筋がゾワッと寒くなる。



………動画と同じ顔で笑ってた。


























あとがき

橘咲夜、狡猾。

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