オフィスの中
他でも投稿してます。
恥ずかしいので、何処とは言いません。
読む人を選びまくる新連載、始めました。
東京23区にあるオフィス街。超一流企業の橘物産。日本全国の一流大学を卒業した人間が集まる企業だ。そこに角倉ユキは在籍していた。
埼玉県立伏黒高等学校を卒業後、数十件の面接を経てやっともぎ取った企業。
高卒なんてあの企業が取るわけないと思ったけど、ダメ元で面接したら何と何との内定を経て就職にこぎつけたというわけだ。
何十人もの新卒入職の中でも高卒枠は僅かに5枠しかない。そしてそれも人事の気紛れで不採用になり、毎年0人採用が当たり前の中での採用にユキは実家で飛び上がるほど喜んだ。
そうして入った部署は事務。その中でも主に雑用と呼ばれるものばかりを担当していた。
「あれ?これって確か営業部の……」
手元の書類は営業一課、いわゆる生え抜きにエリートだけが入れる部署の書類が無造作に置いてあった。
「何で営業の書類がこんな所に…って、これ今日提出の書類じゃん!えー?名前は……橘咲夜……え?御曹子サマじゃん………」
橘グループのトップに君臨する橘一家。その内の2人の息子の内、次男の方だ。長男はまた別の会社で働いているらしい。
橘咲夜は今年入った新人らしく、なかなか素直で飲み込みが早い頭の切れる男らしい。
食堂で綺麗なお姉さん達がそう噂していたのを聞いた。
ユキはこんな書類が何故紛れていたか不思議だったが、取り敢えず届けてあげよう、と思って腰をあげた。
自分達のオフィスとは違う、フロア一つに区切りがない。
「はー、広ーい」
ユキは思わずフロアの中を見渡した。コール音がけたたましく、あちらこちらから聞こえてくる。人が男も女も忙しなく動き回り、パソコンを打つ手に淀みは見られなかった。
取り敢えず目視では書類の持ち主は見つかりそうにないことが分かり、ユキは入り口に座る事務に声をかける。
「あの、こちらに橘咲夜さんはいらっしゃいますか?」
事務はあからさまに怪訝な顔をすると、ユキの全身を上から下まで見下ろした。そうして相手がどの程度の人物かを図った後、眉をひそめて淡々とこう言った。
「いらっしゃいません。」
たったこれだけ。
しかしユキだってここではい、そうですかとは引き下がれない。何と言ってもこの書類、明日が締めなのだ。書類にそう書いてある。ちなみに今は18時10分。
こんな所で押し問答をしている暇などあるわけがなかった。
「いえ、私は橘さんに用があって来たんですけど…」
「アポは取ってありますか?」
この調子だ。それどころじゃないのに…。
「あの、入り口で何やってるんですか?」
振り向いたら胸があった。そのまま顔を上に上げる。
190cmはあるだろう身長は悲しいかな150cmの自分には壁のように見えた。しかも、副音声に「邪魔なんですけど」と聞こえてきそうな表情をしている。でも私は正直ちょっと驚いていた。何というか、顔がきれい。端正な作りをしている。サラサラの黒髪もなかなか評価できる。
この男はきっとモテるに違いない、なんて思いながら「あの、橘咲夜さんを探しているんですけど」と思いきって言ってみた。
「え、それ僕ですけど…何のご用ですか?」自称(多分本当に)橘咲夜さんが首を傾げる。
ユキは思わず「ああ、良かったです」と言ってさっきの書類を手渡した。
怪訝な顔を崩そうともせず書類を受け取って…橘さんはみるみるうちに顔色を変えた。
「ちょっ…これ、どこで…」その慌てぶりを見るに余程大切な書類だったのだろう。少しだけ優越感がくすぐられるが、橘さんが本気で困っている。
「ああ、うちのシュレッダー行きにありましたよ。届けた方が良かったですか、やっぱり」
「もちろんです。これの期限、明日の朝一なんですよ!あー、今日は残業だー」
橘財閥御曹子でもこんなミスをやらかすんだなあ、なんて思ったがユキは少し考えながら口を開く。
「……私、手伝いましょうか?」
「……え?」
橘さんのポカンとした顔を見て、顔にサッと朱が走る。バカだ…私。エリートの仕事を裏方事務が「手伝う」?
「あっ...その……ウソ!ウソです!そんな、そんな……私じゃ書類に何書いてあるかなんて………わからないですよ……きっと」
言ってて惨めで声が小さくなる。しかし、橘さんはユキの両手を急にガシッと掴むと鬼気迫る顔で頭を下げた。
「お願いしますっ!助けて下さい!先輩!」
こうして御曹子と裏方事務という一見相容れない2人がそろって残業することになったのだった。




