17 遠き救い
周防と咲夜はまず、2人の妻を殴ると、無言で犯した。抵抗する素振りをチラリとでも見たら容赦なく馬乗りで拳をふるった。
男と女である限り、力と性で屈服させるのが早い。
兄弟は痛みが頭を痺れさせ、暴力が心を麻痺させ、性による屈服が存在を否定させることをよく知っていた。
咲夜はユキの首を絞めた。赦せなかった。
同じく周防は舞依の首を絞めた。赦せなかった。
兄弟は互いに傷つけ合い、兄は弟を征服し弟は自分より弱い者を征服し、しかしどこまでも叫んでいた。
「「自分たちは被害者だ!」」と。
だから、この場合の加害者は妻たちだった。自分達の前には、被害者の前には、加害者しかいない。
「どうして俺のそばを離れたの?」
「そんなこと、赦した覚えないよ」
「呼んだのに振り向きもしなかった」
「あー無視されたんだ、俺」
「拒絶された」
「踏みにじられた」
「捨てられた」
「捨てられた」
「お前が捨てた」
「母さんみたいに」
「俺達捨てた」
「父さんみたいに」
「俺達を犯す」
「兄貴みたいに」
「父さんみたいに」
「俺達を」
「「殺すつもりだな」」
呪いの言葉が渦を巻く。2人の口からこだまする。2人は互いの妻の首を絞めた。呼吸を強制的に止められて「かはっ…」と変な音が喉から漏れる。
苦しい、苦しい、苦しい…。
死んじゃう…死んじゃう…死んじゃう。
やめて…やめて…やめて…。
頭の中で2人が叫んでいる。
夫達の手を剥がそうと首にかかった手に必死に自分の手を持ってくる。男2人の皮膚をユキと舞依の爪が突き破った。爪の分の厚みだけ細く、赤く血がにじむ。
兄弟の手にピリッとした痛みがかすかに走った。
ユキが生と死の狭間で、咲夜を見る。霞む視界が涙で揺れる。
舞依もまた、周防をぼんやりと見る。頭がだんだん痺れてきて、訳が分からない。
2人が焦点の合わないうつろな瞳で、口元から気泡混じりの唾液をこぼす。
爪を立て、「いやだ」「怖い」「やめて」「死んじゃう」と必死に伝えて…伝えて…。
2人は最後に男達を見て自然に言葉が口をつく。
首を絞められている真っ最中に、不思議な冷静さが頭……いや、心に去来する。
「「…か…いで……い、な……み」」
2人が口にした。そのまま目がぐるっと上転して2人は意識を失った。
男達は冷徹な目でそれを見ると手をやっと離す。口元の呼吸を確かめると再び互いの妻の中を堪能し始めた。
男達の呼吸と、水音と、皮膚のぶつかる音と、肌に残すリップ音。
やがて2人はせわしなく動くと、「うぅっ……」と呻いて顔を歪めた。
それから、丁寧に濡らしたタオルで2人の身体を拭く。今まで殴って、蹴って、犯していたとは思えない丁寧さだった。愛おしそうに腫れた頬を撫でると妻を抱き寄せるようにして眠りに落ちる。
その姿はまるで小さな時に読んだお伽噺の中のドラゴンが宝物を抱き寄せる姿を彷彿とさせた。
泣かないで…小さな神
2人の祈りは夜の闇に溶けて消え、いまだ届かない。
人にも……神にも……宇宙にも。




