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神の歌  作者: 遵由
13/27

13 地獄の苦しみ



帰ってからも、何度も何度も咲夜はユキに吐き出した。

好きだから。可愛いから。

泣かせて、虐めて、征服する。


首を絞めて命のやり取りの真似事をして、そのまま中に吐き出せば、丸ごと自分のモノにした気分が味わえる。



最高に興奮した。



「あー、その目を見てると頭おかしくなりそう」



気持ち良すぎて蕩けそうと耳元で囁く。


実際、ユキの中はあったかくて、ふわふわで、切なく締めつけて、咲夜をいじらしく虐めてくる。



「あー、可愛い、可愛い、可愛い」

「気持ちいい、気持ちいい、気持ちいい…ユキ…ユキ…」



何度も果てて、咲夜は身体を繋げたまま、とろりと誘う眠気に逆らうことなく意識を失った。








銀河のほとり。

男が一人、両手で顔を覆って泣いていた。小さく丸まった背中を嗚咽のたびに震わせる。


ユキは翼を広げて、ゆっくりと降り立った。男が涙を流すのはいつものことではある。


仕方ない、彼はあの宇宙の檻、地獄星からやってきた。あの星での日々では、泣かない時がないだろう。想像にかたくない。



「どうしたの?」ユキが顔を覗かせる。咲夜が小さく呟いた。



「お願いだ……俺を、殺してくれ」



ユキの目が僅かに揺れる。自ら死を望むほどの責め苦が地球では日夜行われているというのか…。


神を見つけられず、他者を憎み、嫌悪する地獄星は今日も健在らしい。



「貴方の苦しみは分かるけど、殺してくれとはどういうことなの?」


「………殺してくれ」



ユキがなおも質問しようとすると、咲夜が被せぎみに叫んだ。



「お願いだから……」



ユキがその丸まった背中をさすった。慰めようと口を開く。



「殺せないよ。私と貴方は同じものだから」



隣に座ると男…咲夜がビクリと揺れた。



「同じもの?俺とお前が…同じ?」


「同じ、神の内側にある者。宇宙は全てで一つだから、違うものなんてないよ」



そう言ってユキの顔をした天使…いや、ユキの本体がにこりと笑う。小さく丸まった咲夜の背中をひたすら撫でる。



「ここは…過去なんだろ?俺は未来で地球に行ったお前を……知っている」



咲夜の言葉にユキが首をコテンとかしげた。咲夜は朝、彼女に言った台詞を思い出して吐きそうになった。



「過去……咲夜が言うならそうだろうね。地球とは時間の流れが違う。私には過去でも未来でもないけど…貴方がそう感じるなら貴方にとっては過去なんだろうね」



咲夜にとっては難しいこと、ユキにとっては普通のことを言うと「それで?」と続きを促す。



「………おれ、は……お前に……地球で、酷いことを……した」



具体的に何をしているか言おうとして……咲夜は開いた口を閉じた。


………言えるか、あんなこと……こんな場所で。


口に出すどころか、考えることさえはばかられる。


銀河が河になって流れ、目の前の鼻先を小さな星々が行きつ戻りつしては光りの尾を道行きの残滓として残す。色鮮やかなガスと中に煌めく星の光り。上空には数多の天使、天使、天使……。


こんな場所で………あんなことを、口にする?



「そう……酷いことを……」



ユキは当たり前だが、どんな酷いことをされたのか分かってないようだった。当然だ。天使に地球の変態なんて理解どころか想像だってつくものか……。


咲夜はますます身体を小さくする。涙があとからあとから、止めどなく流れ続ける。



「……可哀想に。辛かったね」



泣く咲夜の背中をそれでもユキはゆっくり撫でた。咲夜が信じられない、と言うように目を見開く。

自分は今、被害者に慰められているのか……なんで。



「可哀想…可哀想に。こんなに泣いて…可哀想に」



ユキの手が、天使の手が温かく咲夜を癒していく………手を振りほどくように身体を揺らした。



「……っ、ふざけんな!俺がお前に酷いことしたって言ってるだろ?何で俺を慰めてんだよ!?」



咲夜が怒鳴る。腹の底から声を出して、大声で怒鳴った。



「天使様ってのは、脳ミソついてないのかよっ!」



被害者に怒鳴り散らす加害者という最悪の構図を取りながら咲夜の罵声は銀河のほとりに響いた。

ユキが振りほどかれた手のやり場に少しだけ戸惑いながら「何で慰めるのか……咲夜が傷ついているからだよ」と当たり前のように言う。


いや、実際に当たり前なんだろう。銀河のほとりの天使様にとっては被害者も加害者もない。ただそこにある悲しみに寄り添うだけだ。



「だから……そういうの、地球じゃ通用しねえんだよ!苦しむ奴と苦しめる奴がいて、敵がいて味方がいて……もがいて、あがくんだよっ………だから俺は、お前に……あんなこと、したんじゃねえか……」



咲夜ががっくりと力なく項垂れた。それを見てユキは息を吐くと歌う。





泣かないで

泣かないで

小さな神様

泣かないで…

私と貴方はおんなじで

神様あなたとおんなじで

辛くないよ

悲しくないよ

寂しくないよ

小さな神様

泣かないで………





歌声が天に溶ける。咲夜は嫌でも歌声に慰められている自分を感じて反吐が出そうになった。


何で殴って、犯して、めちゃくちゃにした奴に背中撫でられて、歌を歌われて、慰められてんだ……俺。



おかしいだろ?こんなの、おかしいだろ?



言ったってどうせ崇高な宇宙の真理とやらを持ち出されて、当たり前って顔をされるだけだ。


咲夜はもう、諦めた。

黙って撫でられ続けることを選ぶ。



「私と貴方は同じもの。左手が痛めば右手は撫でるよ。自然にね」



そう言ってユキは咲夜の背中を撫でた。咲夜はもう、涙も出ない。



「ここの記憶があれば……持って帰れさえすれば……あんなことはしないのに……」



目覚めたら自分はまた、犯す。もう分かっている。

ユキは咲夜にとって、可愛い可愛い、可哀想な被害者だ。持ち物なのだ。


物に感情はいらない。


泣かせて、喘がせて、虐めて、苦しめて……大好きと言う。


ユキは咲夜の中の吐瀉物を丸ごと受け取るごみ箱になってさえくれればいい。

自分の痛みを…精に変えて暴力で吐き出せれば咲夜は満足する。



「分かっていたけど……つくづく、救われない……クソ野郎だ、俺は……」











もう少し食べないといけないよ、俺は肉付きがいいほうが好きなんだ。











咲夜の脳裏に、自分の欲を吐き出しながらユキに向かって何度も何度も囁いた台詞が鮮やかによみがえる。


咲夜は今度こそ、星の河に向かって盛大に吐いた。



「……っ、地獄に…落ちろっ」



咲夜が怨みと憎しみを込めて叫ぶ。



「地獄に落ちろよっ……俺……」



歌声が銀河のほとりに響いていた。











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