12 地球人
朝になった。隣でユキがまだ寝ている。咲夜は頭をかくと、小さく溜め息を吐いた。
髪を掴んで頬を張る。
パンッと軽い破裂音が響いた。
ユキが眠いやら痛いやらで、呻きながら目を開ける。
「…やめて」
涙を浮かべた目をぼんやりと向けながら咲夜を見る。
「……チッ」
その目に妙な苛立ちを感じると舌打ちをする。洗面所まで髪を掴んで引きずった。
「痛い、離して!」
ユキが頭に手をやりながら必死に咲夜の拘束を解こうとする。しかし咲夜はそのまま洗面所に水を張ると力まかせにユキの顔を突っ込んだ。
ガボガボと溺れる音が数回聞こえて、それから静かになった。
ゼイゼイと肩で息をするユキの頭をグッと下に押す。洗面台に手をつく格好になったところで、無理やり突っ込んだ。
「いっ……たい……」
いきなり内臓をまくり上げられる感覚、自分以外の他人が身体に入り込んでいる違和感、異物感、嫌悪感、そして痛み。
気持ち悪い…気持ち悪い…気持ち悪い。
「なあ、声…出せよ」
情欲で焼けたようにかすれている。
男…咲夜からの、ご主人様からの命令に唇を噛み締めた。
中に突っ込まれたものが震えたと思ったら顎を後ろから掴まれて無理やり前を向かせられる。
鏡に写った自分は酷い顔をしていた。
咲夜が小刻みに揺れていて…見れば肩を揺らして笑っていた。鏡の中、バチッと目が合う。
「目え…そらすんじゃねえよ…俺を見ろ」
怖い…見たくない…でも逆らったらもっと酷いことされる…。
のろのろと顔を鏡に固定すると咲夜のギラついた目と自分の怯えきった目が交差した。
咲夜が喉の奥でくっくっ…と笑うと再開する。
「は…ぁ…最高…きつくて、とろとろ…ふわふわ…超気持ちいい…」
夢見心地で喘ぎながら腰を振る咲夜を自分の精一杯で迎え入れる。言われた通りに必死に声を出して、場を盛り上げる。
水音も、肉の音も、後ろから聞こえる息づかいも、全部、全部、全部……。
ぜんぜん慣れない。
やがて動きが速くなって、息も荒くなって、後ろで自分の腰をつかむ咲夜が感極まった呻き声をあげて震えた。
立てない自分を抱えてベッドに寝かせる咲夜に目を細める。優しく布団をかけると頭を撫でていた。彼の手つきは自然で撫でられる頭も純粋に気持ちがいい。
そんな自分をどこか遠くから見るような…変な感じだ。感情も感覚も、もう閉じている。痛みを麻痺させてご主人様の与える「優しさ」に心地良さを覚えるように自分で自分を作り替えている。
自分を犯した男が自分の頭を撫でて、気色の悪さよりも先に優しさを感じて、真綿でくるまれているようなふわふわした多幸感を確かに感じている。
自分も大概狂ってるな、と思いながら咲夜に「ねえ」と声を掛けた。
「何であんなことしたの?」
ユキの質問に咲夜が小首を傾げる。それを見て正直イラッとした。
犯罪者が可愛い子ぶりやがって…。
思っても顔にも口にも出さない。咲夜は「えー?うーん…」なんて考える素振りを見せて、それからニコリと笑った。
「朝から一発抜いとくと、すっきりして仕事がはかどるんだよ。一日中余韻に浸れるのも最高だしね」
とっても素敵ないい笑顔で、ゲス野郎の極みみたいなことを言い放った。
「………最低」
ユキの返事に対して咲夜はこの上なく嬉しそうに声を出して笑った。
咲夜は一人運転しながらユキに言った返事を思い出した。
笑って「一発抜けばすっきり快適。余韻も最高」なんて言ったが何のことはない。
「ただの八つ当たりだよ、ユキ」
兄貴に対する、自分の苦痛に対する、八つ当たりだ。自分の中の行き場のないどろどろとしたものを、自分より弱い生き物にぶつけて、暴力で言うことを聞かせて……。
咲夜はウインカーを出しながら吐き捨てた。
「あー、すっきりした」




