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パピエ・マシェ、あるいは神の声を聞く貴族令嬢  作者: RiePnyoNaro


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パピエ・マシェ、あるいは神の声を聞く貴族令嬢 その5~奇跡の泉を掘り当てる見世物を開催する~

フランツが面白くなさそうに口をとがらせ


「なんだ~~!知ってたのか。

『パピエ・マシェ(papier(パピエ)(紙)・mâché(マシェ:砕いた))』を!

つまらんなっ!

だが君にあげるよ。

父がフランスから仕入れたんだ。

本物の漆器ほどじゃないが、美しい芸術品であることは確かだ。

ところで君はもう『ウィーンの聖女』を見たか?

『魔法のスープ』で老齢女性を助けたのに続き『奇跡の水』を作り出し、肌が弱い人々や美肌効果を願う女性たちの救世主になっているらしい!」


レオポルトはさらに深く椅子に背をもたせかけ、閉じかけた眠そうな目で口元だけをムニャムニャ動かし


「ん?うわさは聞いたことあるが、見たことはない。

『奇跡の水』?胡散臭(うさんくさ)いな。

どうせ普通の湧き水を奇跡の水と称して高額で売りつける宗教がらみの詐欺女だろ?」


フランツが眉を上げ首を横に振り楽しそうに


「いいやっ!そんなんじゃなく、『ウィーンの聖女』が作った水は本当に効果があるらしいんだ!

さらに面白いことに第二の聖女が現れて、


その『ウィーンの聖女』は偽物だ!

私こそが本物の聖女だ!

偽の聖女の嘘を暴き、本物の聖女の能力を見せるから、見たい人はヴァッサーグラシ(水のグラシ)に集合!


と号令をかけたんだ!

ちょうど今日だよっ!

面白そうだから行ってみようっ!」


ということになり、レオポルトも重い腰を上げるハメになった。


トップハット(シルクハットのこと)をかぶり、高い(えり)つきのシャツの首元にはクラバット(スカーフ)を巻き付け、ウエストコート(ベストのこと)にフロックコート、トラウザーにヘッセンブーツを合わせた品格のある外出着の装いで二人はグラシの一角をしめるヴァッサーグラシ(水のグラシ)へ出かけた。


二人のいるウィーン旧市街は中世からの城郭都市で、つい数年前まで周囲全体を城壁に取り囲まれていた。


現在は城壁が取り壊され、敵を食い止める斜堤(しゃてい)の役目を終え開発が許可されたグラシには、建物が建て始められていたが、まだ広大な更地が残されていた。


皇帝ヨーゼフ2世の時代に、街路樹が植えられ整備された放射状に延びる道や、若草が伸びはじめた草原は、春の穏やかな日差しの下では絶好の散歩道だった。


旧市街をベルト状に取り囲む広大な緑地であるグラシには、昔から、戦時には撤去可能な木造の店が並び、大工や石工の作業所、果物・魚・チーズ・パンの売店、はては黒色火薬の材料である硝石の生産施設まであった。


フランツとレオポルトはヴァッサーグラシに到着すると、簡易な屋台や高級なカフェなど数多くの飲食店の、野外に並べてあるテーブルでコーヒーを味わう人々を眺めながら草原を歩いたり、土手からウィーン川を見下ろしたりして、目的もなくブラブラしていた。


すると数十人ぐらいの人だかりができているのを見つけた。


二人は人垣(ひとがき)に加わり、肩と肩の隙間から中の様子をうかがった。


人の輪の中央には、デイ・ドレス姿の貴族令嬢とワンピース・エプロン姿の庶民の少女が並んで立っていて、貴族令嬢は上ずった高い声で得意げに、群衆に向かって話しかけている。


「ここにいる『ウィーンの聖女』と呼ばれてるこの女は、ただの平凡な女よ!

私だけが聞くことができる『神の声』に従って作っただけ!

『魔法のスープ』と『奇跡の水』を作ることができたのは、全~~~~部、作り方を教えた私のおかげなのよ!

だから彼女は偽物で、私が本物!の『ウィーンの聖女』よ!」


群衆は口々に


「信じられないな!」


「聖女はエレナだろ?」


「おーーい、貴族のご令嬢っ!あんたが聖女である証拠を見せてみろっ!」


などとヤジをとばす。


マチルデはクイッ!と顎を上げ、上から目線で


「そうね!じゃ見せてあげる!

これから私がダウジングで水脈を見つけ出し、奇跡の泉を掘り当ててあげましょう!

みなさんはその証人ですっ!

しっかり見届けてくださいね!」


きっぱりと言い切ると、どこからともなくとりだしたL字型の金属の棒2本を両手で軽く握り、うろうろと歩き始めた。


そばで見ていた質素なエプロン・ワンピースにスカーフ姿の『現ウィーンの聖女』ことエレナはその後ろについていく。


召使の恰好の中年女性、シャベルを手にした召使の若い男性もマチルデの後についていく。


いろんな場所にマチルデが歩いていくのに、人々はぞろぞろとついて歩いた。


が、一時間も続けると、何も起きないことに飽きた民衆は、ひとり、またひとりとついていくのをやめ、マチルデを取り囲む人の数は十数人にまで減った。


焦ったマチルデは何度も立ち止まり、


「ここに泉が湧くはずよ!」


と宣言して、召使にシャベルで地面を掘らせたが、50㎝ほど掘り進んでも何も出ず、あきらめ、次の場所を探すことを繰り返した。


最終的に、二時間後にはマチルデは疲れ果て、ダウジングの棒を召使女につきつけて持たせ、そこまでついてきた人々に向かって


「今日は調子が悪いからここまでよ!

あんたたちのせいよっ!

あんたたちが騒ぐから、集中できなかったのよっ!!

今度は絶対っ!!奇跡の泉を掘り当てるからっ!

フンッ!

じゃ、私は帰るわっ!!」


逆ギレ気味に吐き捨てると、観客からはブーイングと呆れたようなため息が漏れ、ほとんどの人々が散り散りに立ち去った。


腹立たしそうに立ち去ろうとしたマチルデを、そばに立っていたエレナが悔しそうに引き留め


「待ってください!

奇跡の泉はどの場所に湧くと『神の声』はおっしゃったんですか?」


話しかけるとマチルデが不機嫌そうな仏頂面でエレナを睨みつけ


「山が平地になる境界?とか言ってたけど、ここには山なんてないし。

『この時代はダウジングで探す』って言ってたからどこでやっても同じでしょ?」


エレナはもどかしそうに


「その他に手掛かりは?」


マチルデは記憶の糸を手繰(たぐ)るような間を取り


「ええっと、ハンノキ、ヤナギ、アシとか水辺を好む植物が群生してる場所には地表近くに水脈があるらしいわ!」


それを聞いてフランツは目を丸くして驚き、レオポルトと目を合わせ


「マチルデの頭の中の『神の声』とやらは、どうやら本当に正確な知識を持ってるようだな!

マチルデが無意識のうちに本を読んだとか誰かと話して得た知識だろうか?」


レオポルトは難しい数学の問題を解くときのように眉根を寄せた。


そして突然、数歩、マチルデに歩み寄り、トップハットをとり、軽くお辞儀して挨拶しつつ


お嬢さん(フロイライン)、『神の声』が聞こえるようになった経緯と、今まで聞いた神の声の内容を教えてくれませんか?」

(その6へつづく)

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