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パピエ・マシェ、あるいは神の声を聞く貴族令嬢  作者: RiePnyoNaro


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パピエ・マシェ、あるいは神の声を聞く貴族令嬢 その2~神の声を聞く聖女は、少女に助言する~

貴族令嬢はこめかみを指でほぐしながら


「はぁ?なんか知らないけど、さっき目が覚めたらそこにいたのよ。

それからずぅぅぅぅぅぅっと!頭が痛いの。

頭の中で声がして


『娘を助けろ』


っていうのよ!

しょーがないから、助けてあげるから困ってるなら言いなさいっ!」


ぶっきらぼうに命令する。


エレナは神さまに祈りが通じた!!!と舞い上がり、


「聖女さまっ!!どうかおばあさんを助けてください!

実は、以前からおばあさんは・・・・・・」


と祖母の病状と、痛みがひどくて体が動かせないのに往診は明日まで待たなければならない、という現状を事細かに『聖女』に説明した。


そして(すが)るように聖女を見て


「どうかっ!おばあさんを助けてください!

神の御使(みつか)いである聖女さま!

お願いしますっっ!!」


聖女は少し考えると


「私の頭の中から声が聞こえる・・・・・ええっと・・・・・


『リウマチ性多発筋痛症 (PMR)は60歳以上の女性に多く発症する、原因不明の炎症性疾患です。

症状は、朝起きたときに肩、腰、太ももの付け根が強烈にこわばり、痛くて動けなくなります。

「昨日まで元気だったのに、急に寝たきりになった」というほど急激に悪化することがあります。

その症状に効果があるのはステロイドです。

少量のステロイドを投与すると、翌日には「嘘のように痛みが消えた」と本人が驚くほど、劇的に回復します。』


ですって!

わかった?」


エレナはその言葉が意味不明なあまり悲しくなり


「ステロイドって何ですか?」


聖女が記憶を探るような表情になり


「ええっと、『声』が言うには


『副腎皮質ステロイド、つまり糖質コルチコイド(ステロイド薬)にはプレドニゾロンやデキサメタゾンがあります』


ですって。」


エレナはますます絶望的な気持ちになり


「それはどこにあるんですか?

どうやって手に入れればいいんですか?」


聖女がめんどくさそうに、目をつぶって、


「ええっと・・・


『19世紀半ばまでの技術(蒸留、抽出、圧搾など)を用いて、現代の糖質コルチコイド(ステロイド薬)と同等の強力な抗炎症・免疫抑制効果を持つものを作るのは、科学的に非常に困難です。

なぜなら、ステロイド薬はホルモンを分子レベルで合成・修飾して初めてあの強さを発揮するからです。』


ですって!残念ね!無理みたいよ!」


あっけらかんと言い放った。


エレナは手の届くところにあるかに見えた希望が、即座に霧散(うさん)したことに失望し、ショックのあまり黙り込んでしまった。


どうしようっ!!


このままおばあさんが死んでしまったら・・・・・・!


薬はどこかにあるはずなのに・・・・!


明日にはお医者さまに診てもらえるけど、あのお医者さまはすぐ瀉血(しゃけつ)をしたがるし、ほんとに効果があるのかわからないし・・・・・。


気がとがめたのか、慰めるような愛想笑いを浮かべた聖女が


「お気の毒ね、じゃ私は帰るわ!」


立ち去りかけた聖女に向かってエレナは


「待ってください!

あのっ、その、『ステロイド』はどんな材料からできるんですか?」


聖女が上方向を見て自問自答してるような間があり


「ええっとぉ~~~


『生薬の甘草(カンゾウ)(リコリス)の根に含まれる「グリチルリチン」は、体内のステロイド代謝を助け、ステロイドに似た抗炎症作用(擬似ステロイド作用)を持つ』


らしいわよ。

あと、『副腎皮質ホルモン』だから人の副腎?って腎臓の上にくっついてるやつね?それが何のためのものか知らないけど、その副腎にたまってるんじゃない?

私もう帰るっ!!

寒くてたまらないわっ!!」


引き留めようとするエレナを無視して聖女は背を向けて足早(あしばや)に立ち去ってしまった。


エレナの悩みは一向に解決しなかった。


リコリス?の根?ってあの飴の材料よね?はお菓子屋さんにあたってみよう。


それを食べさせればいいのね?


もうひとつは『人の副腎』?!!


気持ち悪いし、倫理的に禁忌(ぜったいダメ)!な気がする。


そもそも、どうやって手に入れればいいのっっ!!??


死んだ人から手に入れる・・・・???!!!


いいえっ!新鮮じゃないなら、食べたりしたらおなかを壊すしっ!!


新鮮な・・・・臓器?


人を殺して・・・・手に入れる??!!


まさかっ!!


そんなワケにはいかないし・・・・。


あっ!そうだっ!


羊や豚や牛?でいいならっ!!


たくさん集めてスープにすればいいわっ!!


お肉屋さんで聞いてみようっ!!


そうして、翌朝、エレナはまだ暗いうちに家を出て、菓子屋、肉屋を回り、頼み込んでリコリスの根、豚の副腎を特別に売ってもらい、スープの下ごしらえを済ませ、目を覚ましたであろう時間帯に医者を迎えに行った。


祖母の診察を終えた医者が


「う~~~ん、どうにもなりませんな。

ためしに瀉血(しゃけつ)を・・・・」


と言い出した途端、


「リコリスの根を手に入れてください!薬用植物として扱ってるとお聞きしましたわ!」


医者はあからさまに嫌そうな顔をしたが、肩をすくめ


「じゃ、知り合いの薬草屋に聞いておきます。

いいころ合いを見て、うちにとりに来てください。」


と曖昧に請け負った。


豚の副腎とリコリスの根を弱火でじっくり煮込んだスープができあがり、エレナはそれを祖母に食べさせた。


ベッドに横たわる祖母の口に、スプーンですくって入れる。


祈るような気持ちでその動作を繰り返した。

(その3へつづく)

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