ステゴロ時雨。
『...!....!...!』
「がはっ...っ....」
カタツムリ型召喚獣パリピマイマイの貝殻の中からアップテンポの音楽が鳴り響く中、右腕にタンクブレイドの刃を携えている新人飼育員の前で玄道は初めて膝をついた。
ーーーパリピマイマイ。ネオン系の色に変色したカタツムリ型召喚獣。
背中の貝殻が不規則なビートを刻んでおり、一生踊っている間は妨害電波と偽装電波を交えて撹乱している。
「....排熱が間に合ってないね。」
緑鱗盾で受け流してきた飼育員の追撃は、ついに玄道の排熱速度を追い抜いた。
「....」
玄道が破損した盾とアーマーを補修している中、飼育員は右腕に纏ったタンクブレイドの刃を腕を中心軸に回転させながら、ゆっくりと歩みを進める。
「....っ..あー、もう一人いたっけか...ん、あれれ」
飼育員は視覚外からの黒い弓矢の連撃を平然と掴んで跳ね除けたが、その一瞬で目の前にいた筈の大男が消えた。
「っ...時雨...」
「玄道さん、才亮さん達に連絡は届きました」
その一瞬の隙に、時雨は深淵で瞬間移動して玄道を回収し少し離れた所に移動し、短く連絡を伝えながら回復薬を飲ませる。
「...裂傷はないですね。内出血も酷くはない。」
配列を段階的に解除してアーマーを解いている玄道の様子を目視で確認し、レーシング後のF1レーサーのような急性熱中症に近いと診断する。
「時雨...その猫の能力で一度...」
他になんの手札を持っているかわからない相手に、玄道は珍しく消極的なことを言いそうになるが、新人管理官は前だけを向いていた。
「玄道さん、何分必要ですか?」
「!...3分、いや1分あれば動ける。」
「了解。クゥさん、玄道さんは任せました。」
『んぁー』
クールダウンに必要な時間を聞いた上で玄道をクゥさんに任せ、時雨は対召喚獣装備:黒グローブを嵌めながら立ち上がり対象へと歩みを始める。
「....っ...スゥ...」
時雨はグローブの感覚を確かめ体の節々をほぐしながら、刃をさらに回転させて加速させている飼育員と相対する。
「...へぇ、やるね。黒猫ちゃんの仕業かぁ」
「さぁ、どうでしょう」
昼の時に牧場で日向ごっこしていたクゥさんを見かけていた彼は召喚主の時雨になめずり顔を向ける。
「空間系?その子くれるなら見逃してもいいよ」
「死んでも無理ですね。」
「っ....そう言われると、ますます欲しくなるよ。」
「....」ピキッ
その気色悪い声音に、言葉に額に青筋が立てながら彼女は月明かりに照らされた、出会った場所が違ければ正直タイプの新人飼育員こと爽やかイケメンの方っへとゆっくりと向かう。
「素手かい?正気じゃないねー」
ヘラヘラと笑いながら、据わっていない首をくらくらとさせる。
「.....」
「嫌いじゃないけど、僕が戦うことはないよ。こっちも温存しないとだし」
『ブレェ....』
無言のまま間合いに入りそうになったところで、彼はウィンクをしながらノックアウトされた筈の背中の刃を剥ぎ取られたタンクブレイブが前へとでる。
「.....」
「ブレちゃん。最後のチャンスだ。その子を好きにして」
『ッ....ブレェェェ!!』
召喚主が死ねば、死後1日以内であれば召喚主の権限を継承できるため、召喚主は殺して構わず、消耗はあれどまだ血気滾っているタンクブレイブは両拳を上げて体重を乗せて彼女へと振り下ろす。
「.....シッ!!!」
ーーーーズゴぉぉぉん!!
『ブレェっ....ぁ..ぇ..』
が、彼女は避けるそぶりを一切見せずして、タンクブレイブのガラ空き鳩尾に正拳を突き抜いた。
こいつの持っている召喚獣は強く、ネットワークから味方を分断させ、組み合わせれば強力だ。
けど、少なくとも....
こいつらは道理が通じる。
ーーーかかっ!脳みそりょうさん詰まっとるからなぁ!!
そして、武田よりは弱い。
「ごちゃごちゃ、せからしかね。まとめてかかってけ....全員屠ってや"っ"!!」
副科長を追い詰めた相手に、時雨はとうにプッツンしていた。
『....プレぇぇい!!』
ーーードドぉぉぉん!!
しかし、背水の陣であるタンクブレイドも簡単には倒れず、のけぞった背筋の反動で両拳を振り下ろす。
地面にはクレーターが出来、砂埃が舞う。
「.....っ!!」
『ブレぇ...』
砂埃の中、足音も予備動作の音も一切立てず、時雨はタンクブレイドの脇腹へ再度正拳突きを打ち込んだ。
「...シッ!」
そして、怯み、首元の筋肉が弛んだ所を逃さずして、顎に目掛けて昇天蹴りを撃ち抜く。
『っ..ぅ....グゥ』
「....スゥ....しっ!」
ーーーードォぉぉん!
白目を剥いて意識を失ったタンクブレイドは地面に倒れ、頬に伝う風圧に時雨はゆっくりと息を吐いて正体の構えを取る。
ーーーーー...シンっ!
「っ!!」
その後間髪入れずに、爽やかイケメンから放たれた加速したタンクブレイドの刃を寸前で避ける。
「...うーん、おかしいな。2回も避けられるかなぁ」
二度確信したヒット判定に納得が行っていない爽やかイケメンは磁力に引っ張られて戻ってきた刃を回転チャージする。
「なんじゃ?余裕がのうなったか?」
消耗しているとはいえタンクブレイドを三撃で沈めた女に焦りを香らせていた。
「ははは...まぁ、そんなところかな。」
飄々としている彼であったが、その右腕を軸に回転し加速し続けている刃が孕む熱量は爽やかさとは無縁であった。
「....スゥ」
凶悪なソレを前にしても、時雨は正体し打ち込んで来いといった様子で構える。
「っ...へぇ、マジか。いいね...っ!!」
敵ながらほぼステゴロで受けようとする彼女に敬意を表し、最大速度で刃を放つ。
空間を寸分の狂いもなく切り裂くような静かな音と共に、時雨の眼前へと到達。
「...は?...っぅ?!」
後ろから表出した深淵から到達したはずの刃が現れ、爽やかイケメンの背中を貫通し、再び時雨へ向かうが無から表出した深淵によって飲み込まれていった。
「...こうなったら..」
「玄道さん!」
「あぁ!」
体が真っ二つになりながら地を這いずり、何かアクションを起こそうとしている爽やかイケメンを多少は動けるようになった玄道が緑鱗で覆って捕縛を図る。
「っ...野郎..ぅ...」
「こいつ...」
玄道は周囲に一粒たりとも鮮血が飛び散っていないのに気付き、何より緑鱗越しの感触に馴染みのある感覚を覚えた。
また、真っ二つになった上半身と下半身は互いに一つに戻ろうとしており、爽やかだったイケメンの顔はスクイーズのゆるキャラのように脈動し変容していた。
まさにそれは
「え...スライム?」




